『恋におちたシェイクスピア』(Shakespeare In Love)
監督 ジョン・マッデン


 18年前の市の文化祭参加行事『十二夜』(シェークスピアシアター公演)は、僕に演劇への興味と関心を決定づけた出会いの作品で、シェイクスピア劇のテンポの良さと言葉のリズムや豊穣さに圧倒された記憶がある。聴き取る自分の頭の回転が完全にはついていけないなかで、甘美な言葉の放射に眩惑される快感といったものを満喫させてくれて、シェイクスピアのひとつの核心部分に出会えた気がしたものだ。かたや『ロミオとジュリエット』は、東宝宝塚劇場で高校生のときにリヴァイヴァル上映で観たフランコ・ゼフィレッリ監督作品でのオリビア・ハッセーが青春時の思い出として忘れられない。

 こんなふうに観る側に特別な意味を持たれた形で出会う新たな作品というのは、どうしても不利としたものだが、『恋におちたシェイクスピア』は、脚本自体の持つ設定と展開の機知の豊かさがシェイクスピアの言葉の機知に負けないくらいに観る側を唸らせてくれ、演出のテンポの良さと芝居掛かった高揚がまさしくシェイクスピア劇に相応しい、実に上手く魅惑的に語られる“ウィリアム・シェイクスピアとヴァイオラの恋物語”として結実していた。芸術性を鼻につかせず、よく出来た上質の娯楽作品として文化の薫り高いところがなかなかのものである。

 チラシに謳われた“名作の裏に秘められたロマンスの真実”を思わずその気にさせてしまう美術や衣装の充実による効果もさることながら、戯曲『十二夜』ではオリヴィア姫が恋し、この映画では三十歳前の若きシェイクスピア(ジョセフ・ファインズ)が恋をするヴァイオラ(グウィネス・パルトロウ)の男装の魅力が鮮やかだ。

 しかし、何と言っても最大の功労者は脚本だと思う。史実と創造されたフィクションの混在にリアリティを賦与する以上に、そこにシェイクスピア劇のエッセンスを見事に投影させていることには驚くほかない。そのエッセンスの捉え方においても、創造された物語への投影の仕方においても、まさしく感服させられた。こんなに見事な脚本が出てくるのだから、やっぱりハリウッドはたいしたものである。



推薦テクスト:「映画の手帖」より
http://www.tcn-catv.ne.jp/~hossan/shakespeare.in.love.html
by ヤマ

'99. 6. 8. 東宝2



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