秀作確保は果たせるか
高知新聞「所感雑感」('06. 2.15.)掲載
[発行:高知新聞社]


 先月末で高知の中心街には映画館がなくなった。「37年間ありがとうございました」との高知東宝特別プログラムの初日に『喜劇 駅前旅館』を観に行ったのは、先頃「県民の選ぶ映画ベストテン」で1位に選出されたALWAYS 三丁目の夕日を観てきたばかりで、まさしく、その1958年の東京が映っている作品を観たかったからだ。路地や商店街のようすがそっくりで感心しきりだった。妙に面白かったのが、同時代に撮られた『駅前旅館』のほうでは東京見物に団体で押し寄せてくるようになって激変する旅館事情のなかで世の中や人情に「味がなくなってきた」と零す主人公の姿が描かれていることだった。今は失われた良きものが残っていた時代として偲ぶ『ALWAYS』を観たばかりなので、苦笑を誘われる。だが、このズレは、時代を映す鏡でもある映画の本領とも言うべきことであって、改めて『ALWAYS』は紛うことなき2005年の映画なのだと思った。とてもいいタイミングで同時代作品を上映してくれたように思えて嬉しくなった。
 しかし、これで高知市の映画館のスクリーン数は、シネコンができる前とあまり違いがなくなった。シネコンができる前、高知ではピンク映画を除いてざっと300本あまりの映画が上映されていた。そのうち映画館で上映した作品数は、2002年が155本、2003年が117本で、それぞれ162本、187本を数えるオフシアター(劇場外)上映の作品数を下回っていた。7月にシネコンがオープンした2004年は両者が拮抗し、劇場公開作が170本で、オフシアター上映作が173本になった。2005年は劇場間での上映競争が激しく展開され、劇場公開作だけで257本を数え、そのあおりでオフシアター上映作は2000年以降で初めて150本を下回ったが、総数は遂に400本を超えた。
 キネ旬ベストテンが良質作品の基準だとは必ずしも思わないが、ひとつの目安としては有効なので、その選出作品の高知での上映状況を2002年から振り返ってみると、シネコンができるまでは邦洋20作品のうち劇場公開作品数が8本でしかなかったものが、2004年も2005年も共に13本を数えるに至っている。ところが、シネコンで上映されたのは2004年が5本で、フル稼働した2005年でも6本に留まっている。つまりシネコンは、そういう作品をあまり上映しなくても、興行性に富んだ上映作品を充分以上に確保していて専らそういう映画を上映しているということだ。今やシネコン以外で残っているのは成人映画専門館の「小劇」と近頃は旧作邦画の再映ばかりになっている「あたご劇場」だけとなった。そういうなかで、キネ旬ベストテンに選出されるような作品が高知できちんと観られる状況が確保できるのか、愛好家としては心配しないではいられない。
 自主上映や美術館上映などのオフシアターに期待したいところだが、圧倒的な集客力を背景に、次々と手堅く娯楽作品を連発してくるシネコンに対して、既に料金的にも割高になっている自主上映は、従前以上に集客力が衰え、活動継続が危ぶまれる状況になっている。今まさに、全国的にも誇るに足るだけの実績を残してきた高知の映画文化の水準維持を図るためには、何らかの新たな対策が必要になってきている。
by ヤマ

'06. 2.15. 高知新聞「所感雑感」



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