映画振興施策の変化に寄せる期待
地域欄('03. 8月.)最終的には不掲載
[発行:朝日新聞社]


 文化庁の「映画振興に関する懇談会」が、四月末に最終報告書をまとめあげた。打ち出された十二の施策のうち、とりわけ「公立文化施設や公民館を活用した上映機会の拡大」を中心にした"鑑賞環境の改善"には、かつて自主上映活動に携わってきた自分の経験からも、大きな関心を寄せている。
 そういう面から注目すべきなのは、同じく文化庁が(財)国際文化交流推進協会[エース・ジャパン]に委託して実施した「映画上映活動の現状調査」だ。鑑賞環境の改善ということに直結する調査報告書で、今後の施策の具体化に際して非常に有用性のある、全国規模でのデータ集計となっている。

 長らく映画を愛好してきた者として感慨ひとしおなのは、はや一昔前になりつつある"映画百年"前後の時期に、期待を抱かせつつも盛り上がらなかった映画振興施策の本格化が今ようやく進み始めたように思うからだ。隣国韓国では、ちょうど映画百年の頃から二段階の大きな制度転換によって、この十年足らずの間に文化的にも産業的にも大きな成果をあげている。ある意味で、今時これだけ顕著な施策効果を発揮できる分野は、そうそうあるものではないから、そのあたりを踏まえての日本の映画振興策の強化という方向づけがされたのなら、一時的なものに留まらないかもしれないとの期待が募る。2001年末に制定された文化芸術振興基本法に映画の振興がきちんと位置づけられたことの反映でもあるようだ。
 今回の動きにおいて最も積極的な評価を受けるべきなのは、従来的な製作支援から上映支援への確信的な踏み込みが見られる点だ。映画は上映されて初めて映画になるのであって、上映されなければ只のフィルムでしかない。この自明のはずの部分が"興行"の一語によって、長らく文化政策の埒外に置かれてきたように思う。それが画期的に変わろうとしているわけだ。
 そのような時期に、上映状況の包括的な調査データが報告書になったことは、実に意義深い。この調査のような地域の状況に対する包括的なデータ集計は、これまでにも例がなく、画期的なものである。そればかりか、かねがね我々が感覚的に抱いていた各地の状況についてのイメージが、見事に数値によって裏付けられた観がある。

 特に印象深かったのは、以下の二点である。まずは、作品の公開率を向上させるうえで決定的な役割を果たしていることを窺わせたミニシアターの存在が、公開作品の多様性を確保することにおいては必ずしも決定的ではなく、むしろ非映画館上映の果す役割が非常に大きいことが浮かび上がってきたように思われることだ。ミニシアターといえども通年興行を継続していくうえでは、多様性を確保するための地味な作品ばかりを上映するわけにもいかず、その点では、スポット的な非映画館上映のほうが思い切った作品選択ができる状況にあるということだろう。二点目は、1スクリーン当りの人口や上映作品1本当りの人口での優劣が、公開率や多様性の指標による優劣結果との相関性に乏しいということである。そこからは、シネコン問題を含めた映画の鑑賞環境についての論議のなかで過剰に取り沙太されている観のある、スクリーン数とか上映本数といったものが、直ちに質的な充実を保証するものではないという事実も浮かび上がっていた。
by ヤマ

'03. 8月. 朝日新聞地域欄に掲載予定の依頼稿ながら未掲載



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