文化庁の「映画上映活動の現状調査」報告書について
学芸欄('03. 8.22.)掲載
[発行:高知新聞社]


 少々旧聞に属するが、二月二十四日の本紙朝刊に“学校や公民館活用重視”との小見出しで、文化庁が積極的な映画支援に踏み出す方針を打ち出したという記事が掲載されていた。私の目を引いたのは、これまでの製作支援から上映支援への確信的な踏み込みの部分だ。映画は上映されて初めて映画になるのであって、上映されなければ只のフィルムでしかない。しかし、今まで映画上映に対しては、文化振興施策としての活動支援に目立ったものがなかった。かつて高知映画鑑賞会の活動に携わっていた頃に、音楽や美術に比べて随分と不遇をかこっているように感じたものだ。  今回の上映支援への踏み込みが一時的なものに留まらないかもしれないとの期待が募るのは、そういう方針を打ち出すのみならず、文化庁が「映画上映活動の現状調査」というかつてない画期的な全国調査を実施したからだ。
 これは、同庁が財団法人国際文化交流推進協会[エース・ジャパン]に委嘱し、NPO法人映画美学校フィルムネットワーク推進委員会の協力を得て行ったものだ。各県の映画館数やスクリーン数のみならず、年間入場者数や一人当たりの映画鑑賞回数、映画上映の可能な公共ホール数まで調査されている。そして、1県1都市を選び、2002年の年間上映本数を調べ、洋画/邦画の区分だけでなく、配給ルートや非劇場公開作、旧作上映といった上映作品の質的差異も窺える形での興味深い調査を施している。また、封切作品の公開率や非映画館における上映状況についても、併せて調査している。加えて、各都市の映画上映環境については、地元の映画関係者からの記名報告も添えてあり、前記の施策ニーズとのマッチングという点で非常に有用性の高い調査報告書になっている。

 今回、思いがけなくも私自身が、全国から抽出された3箇所の詳細報告としての高知県分の調査に携わり、加えて、全国データに対する分析を調査総論として執筆する機会を得て、この調査の意義深さを実感することになった。
 まずもって印象深かったのは、これまで感覚的に抱いていた各地の映画状況についてのイメージが、見事に数値によって裏付けられた観があることだった。封切作品の公開率が50%以上の都市は、東京・大阪・名古屋・福岡のわずか4都市しかなく、特に日本映画の公開率の低さには深刻なものがあった。自国の封切作品を3割以上公開している都市が全国で7都市しかない状況なのだ。せっかく製作され、輸入された映画の大半が、映写されていないのである。この公開率の低さに加えて、上映作品の多様性を見渡してみると、事態はさらに厳しくなってくる。
 そういうなかにあって、高知市が洋画上映においてハリウッド作品の占める割合が23%で、東京と並んで全国で最も低いというのは驚きだった。それだけ多様な映画が上映されているということであり、これには県民文化ホールなどでの自主上映や県立美術館の映画事業が大きく貢献していた。また、今回の全国調査では、シネコン問題などでも取り沙太されることの多いスクリーン数とか上映本数といったものが、公開率の向上や多様性の確保といった上映環境の充実を直ちに保証するものでは決してないことも示していて、非常に興味深かった。

 この報告書には、今回の文化庁の動きが2001年末の文化芸術振興基本法において「映画は、国や自治体が振興策を講じるべき文化芸術のひとつである」ことが明記されたことを受けてのものであると記されている。文化庁の上映支援への踏み込みが一時的なものに留まらないかもしれないとの私の期待が募る理由のもうひとつが、ここにある。
by ヤマ

'03. 8.22. 高知新聞学芸欄「月曜随想」
文化庁の「映画上映活動の現状調査」報告書について



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>