人生最後の選択描く
 『92歳のパリジェンヌ』(La Derniere Lecon) 監督 パスカル・プザドゥー
 『ある天文学者の恋文』(La Corrispondenza) 監督 ジュゼッペ・トルナトーレ

高知新聞「第182回市民映画会 見どころ解説」
('17. 6.14.)掲載[発行:高知新聞社]


 今回は、自分の人生を決めるのは自分自身だという生き方を末期において貫いた老年者を描いた作品が並んだ。個人主義の徹底しているフランスの作品『92歳のパリジェンヌ』の主題が“個人の尊厳”で、アモーレの国イタリアの『ある天文学者の恋文』が“若き恋人への想い”であるところがいかにも似つかわしい。

 尊厳死を求める老母を描いた前者では、母マドレーヌ(マルト・ヴィラロンガ)のみならず、娘ディアーヌ(サンドリーヌ・ボネール)、家政婦のヴィクトリア(ザビーネ・パコラ)も含め、女性たちが皆、気丈に愛情深く向かうことができるのに比べて、ディアーヌの兄も夫も息子も男たちは皆そろってうろたえ、頼りなく心許なかった。実際のところ、そうしたものなのかもしれない。愛と命の問題について女性が優位にありそうなのは、フランスに限らない気がする。

 それにしても、タフで誇り高きマドレーヌだ。婚外恋愛においても、社会活動においても、己が人生の末期においても、気負うことなくブレのない天晴れなまでの自己実現である。彼女のようなケースにおいて、掛け替えのない最後の晩餐が、法的に自殺幇助罪に問われかねないという理由で阻まれるのは、確かに理不尽にも思えた。

 残された三か月間のほぼ全てを、教え子で恋人のエイミー(オルガ・キュリレンコ)への伝言につぎ込んだ老天文学者を描いた後者では、エド・フィーラム教授(ジェレミー・アイアンズ)の仕組んだ恋人への仕掛け以上に、作り手の仕込んだ仕掛けに呆気にとられた。大ヒット作『ニューシネマパラダイス』で名高いトルナトーレ監督は女性からの支持が高いとされている。今回の恋人への執心に耽る歳の離れた老教授の実に手の込んだ仕掛けに女性客が心打たれ、支持するのか興味深いところだ。

 故人となっていることへの疑念を抱かせるエドからの手紙や動画レターがエイミーを連れ回すのだが、各所のロケーションが素晴らしい。観惚れるような映像が展開されるところには、トルナトーレ作品の面目躍如たるものがある。

 両作とも男女それぞれの老いたる親の選択がなかなか理解の得られにくいものである点が共通している二本立てだ。顰蹙を買うのか、共感を覚えるのか、観る側の人生観、家族観が問われる形になっているので、どう映ってくるのかぜひ確かめていただきたい。
by ヤマ

'17. 6.14. 高知新聞「第182回市民映画会 見どころ解説」



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