性的少数者描く普遍的作品
 『キャロル』(Carol) 監督 トッド・ヘインズ
 


高知新聞「第180回市民映画会 見どころ解説」
('16. 9. 7.)掲載[発行:高知新聞社]


 上流階級の優雅さをたたえた婦人キャロル(ケイト・ブランシェット)に惹かれ、未知であった自分に目覚める若い女性テレーズを熱演したルーニー・マーラがカンヌ映画祭主演女優賞に輝いた『キャロル』は、ケイト・ブランシェットがアカデミー主演女優賞を受賞した『ブルー・ジャスミン』に続きアカデミー主演女優賞にノミネートされた作品でもある。両女優の細やかな演技力の交わされる競演が実に見事だ。

 夫ハージ(カイル・チャンドラー)との間にもうけた6歳の娘を熱愛しているキャロルは、夫との暮らしが耐えがたくなっている。その原因の一つは、結婚前に終えていたとはいえ、レズビアン関係を幼馴染の親友アビー(サラ・ポールソン)と結んでいて、それが夫の知るところとなったことにあると窺わせていたが、それはきっかけに過ぎず、本質は別なところにある。そのことがきちんと描かれている点が重要だ。「愛している」と執着しつつも、一向に彼女自身を真っ直ぐに見つめようとはしないハージの向かい方には、恋人リチャード(ジェイク・レイシー)から求婚されながらも気のはやらないテレーズが、恋人に対して漠然と感知していたものと同質のものがある。そのことを踏まえて、キャロルとテレーズの関係を観ていただきたい。

 ハージやリチャードは決して心根の悪い人物ではないのだが、今どきなれば、無神経では済まずに悪者にされかねないくらいの勘違い男だ。'50年代前半の男性像としてでないと違和感を覚えかねないほどに典型的なのだが、名作映画『太陽がいっぱい』の原作者パトリシア・ハイスミスが当時、別名で発表した作品を今こうして映画化するのは、かつてほどではなくても、今もこういう男性像が少なからず見受けられることの反映だという気がする。

 最近よく見かけるようになったLGBT(レズビアン、ゲイ、バイ・セクシャル、トランスジェンダー)といった言葉などで示される性的マイノリティについての映画であることに留まらない普遍性と現代性を備えている映画だ。

 併映は、第171回市民映画会で上映されたマリーゴールド・ホテルで会いましょう(The Best Exotic Marigold Hotel)』(監督 ジョン・マッデン)の続編となる作品。高い評価と興行成績を収めた前作から主要キャストの老優【ジュディ・デンチ、マギー・スミス、ビル・ナイ、ペネロープ・ウィルトン、セリア・イムリー、ロナルド・ピックアップ】のみならず、監督、脚本オル・パーカーも続投しているところが見どころで、作品的な成功がむずかしいとされる続編がどうなっているかを是非とも確かめていただきたい。
by ヤマ

'16. 9. 7. 高知新聞「第180回市民映画会 見どころ解説」



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