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『香川1区』['22]
監督 大島新

 民主から民進、希望の党から無所属を経て立憲民主党の政調会長にもなっていた小川淳也が中道改革連合の新たな代表になったことから、五年前の岸田内閣時の総選挙を捉えた作品を観てみた。

 当時、前作なぜ君は総理大臣になれないのか['20]を観たまま本作は未見だったのだが、自民党が下野した2009年選挙以外、小選挙区では五度とも小川を下してきた初代デジタル大臣の平井卓也がまさに絵に描いたような敵役として、デジタル大臣時のスキャンダルを抱えた姿で登場していた。小川自身のキャラクターが際立っていることが映画的に目を惹くものであるのは大前提ながら、『香川1区』の面白さは、敵役を担える平井あってこそのものだと改めて感じた。

 その平井陣営にもカメラは突入していて、最初は余裕を見せるように取材に応じていたものが選挙戦の始まった終盤は掌を返したように取材拒否に転じていた。あまつさえ支援者と思しき人物が映画撮影を妨害すべく眼前で警察に通報している様子が生々しく映し出されていた。また、平井陣営の十人分のパーティ券購入に対して三人までの出席しか応じない政治資金パーティの実態と思しきものが情報提供されていたり、市役所職員をも含めて期日前投票を済ませた人物の名前と所属の報告集計を行っていると思しき様子が提供された情報に沿って捉えられていた。

 この2021年選挙の結果は、二万満票近い差をつけて小川が二度目の選挙区選挙の勝利を掴むものだったが、印象深いのは、画面に映し出されていたそれぞれの支援者の質の違いが、そのまま候補者の質の違いを映し出しているように感じられたことだ。ここまで暴き立てられたことによって受けた平井陣営のダメージには相当のものがあるに違いないと思って、今回の自民党圧勝に終わった総選挙の結果を確かめてみたら、小選挙区での勝者は小川であり、平井は比例区での復活当選だった。選挙区での得票差は僅か829票だったが、今回の中道改革連合の惨敗状況からすれば立派なもので、彼の個人票に支えられたものだったのだろう。

 平井候補は、四国新聞や西日本放送のオーナー一族で政治家になる前は西日本放送の社長だったはずだ。かたや小川候補は、美容院の息子。蟷螂之斧のような闘いを重ねて逆転劇を期しているのだから、絵になるわけだ。それを意識してか、自転車に幟旗のどぶ板選挙の展開というのが小川陣営の方策だった。また、有権者への訴えかけにしても、一方的に演説するスタイルと、聴衆に問い掛け対話を求めるスタイルという対照も利かせていた。

 だが、改めて印象づけられたのは、対照的な選挙運動スタイルを映し出していればこそ思う、つくづく選挙そのものの不毛というか、この営みが政治体制の根幹かと思うと、政治そのものの次元が高くなっていくのは到底困難だという気がしてくることだった。支援者を排し、支持者のみによって選出される選挙などあり得ないとは思うが、なんであれ“ぐるみ”というものに対して気持ちの悪さを覚える者としては、我が国における選挙ほど気持ちの悪いものはないというのが率直な思いだ。そういうところをよく映し出している作品だったような気がする。

 選挙運動期間の途中から、撮影現場に出ているプロデューサーの前田亜紀に対して名指しで誹謗し、どこに立っていたってかまわないんだろと言いながらカメラの前で背中を向けて遮断していたのは別の運動員だったように思う。通報を受けて事情聴取をした警察からは、撮影自体に問題はないと言われただけでなく、脅されたりしなかったかと労われたとのナレーションが入っていた。

 五年前の四月、小川淳也五十歳の誕生日から始まった本作における彼の言葉で最も強い共感を覚えたものは党議拘束というものを止められないものだろうかとの弁だった。彼が代表となった中道改革連合においてそれを果たせるか否かということにはあまり興味はないが、一党派の内部規律としてではなく、是非とも政党助成法において助成金を受取る要件のなかに「党議拘束の禁止」を明記して、違反があれば政党交付金の返還を義務付けるよう第七章第三十三条第二項を改正してもらいたいものだ。この党議拘束というものが、国会での論戦をいかに不毛にし、議員の資質向上を妨げていることかとかねてより思っていたので、五年前の小川淳也のこの発言には快哉を挙げた。
by ヤマ

'26. 2.17. 日本映画専門チャンネル録画



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