『港のひかり』['25]
監督 藤井道人

 似たような筋立て、風味の作品が数多ありそうな類型を確信的に貫くのは、キャスティングで場を見せる、ある種、歌舞伎風味を企図していたからのように感じた。その点では、河村組元若頭の三浦諒一を演じる舘ひろしの味と貫録を引き出すことが中心になるのだから、それが果されているのは当然だ。

 他にも定番作品を見せ切るに足るだけの充実した配役が施されていて、友情出演の岡田准一がほんの端役を務めているほどだった。だから、役者陣は皆皆よろしかったが、特に目を惹いたのが、除籍になった三浦に代わって河村組を継いだ石崎(椎名桔平)の若頭、八代龍太郎を演じていた斎藤工で、凶暴さとチンピラっぽさで昔の成田三樹夫をアップデートしたような造形を巧みに果たしているような気がした。

 三浦が慕う亡き親分の河村時雄(宇崎竜童)の名を河村にしたのは、企画に名のあった亡き河村光庸からなのだろう。だから、大森幸太(眞栄⽥郷敦)のコウタは、きっと光太だろうと思っていたら、幸太だった。久しぶりに観た気がするピエール瀧も好かった。

 すると、旧知の映友からタイトルと盲目の子どもを助ける設定で、『街の灯』を意識しているように思いましたが、リスペクトするシーンはありませんでしたか?と問われたので、シーンと言うよりも、お話の骨格そのものが『街の灯』だと応えた。

 一番の見せ場は、やはり念願かなって幸太が初めて「おじさん(三浦)」の顔を直に観、積年の想いを告げる場面なのだろう。目が見えず、色眼鏡でも人を見ない幸太と出会ったことで、虚ろだった生に甲斐を得た三浦が、十二年を経ておじさんの存在が生きる指針だった、こんなときおじさんならどうするだろうと考えながら生きてきた、自分を育ててくれたのはおじさんだと、目指したとおり刑事になっている幸太から告げられ、目の手術代や十二年の刑よりも遥かに重い果報を得て咽んでいた場面に打たれた。幾度かの“石崎と三浦が対峙し、貫目を張り合う場面”も観応えがあったように思う。堂々たるエンタメ作品だった。
by ヤマ

'25.11.29. TOHOシネマズ2



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>