『春の画 SHUNGA』['23]
監督 平田潤子

 本作で奇想の浮世絵師として紹介されていた国貞の仕掛絵本『開談夜の殿』や渓斎英泉の『閨中紀聞 枕文庫』を僕が知ったのは、四十年近く前に読んだ林美一の『江戸枕絵の謎』河出文庫 S63)だったように思う。

 歌川国貞(三代豊国)による『正寫相生源氏』の見事な彫りと摺りを見せていた部分は本作のなかでも白眉だったように思うが、その姉妹本たる『花鳥余情 吾妻源氏』を婦喜用又平の隠号で描いた絵本を「1 『吾妻源氏』の美の世界」として最初に持ってきて彫摺の贅という点では本書の姉妹編ともいうべき『正寫相生源氏』大本三冊が、青貝を用いて螺鈿の感じを出すというような極端な贅沢をやっているけれども、…同じ国貞の筆でありながら、かなり出来ばえがおちるP11~P12)としていた。

 だが、最初に高橋工房による鳥居清長の『袖の巻』の復刻から映画を開始していたように、絵師もさることながら木版画技術の粋に強い関心を示していたから、カラー図版のなかった河出文庫と違って、角度や光の当て方も変えて見せてくれたので、空摺り雲母摺り銀摺り艶摺りなどの効果を目の当たりにすることができて嬉しかった。全く以て実に見事なものだった。春画でないと描かれない、髪の毛以上に彫りの難しそうな陰毛の原画再現に取り組んだ彫師の菅香世子が、今の数少ない担い手と違って沢山の彫師がいた当時の頂点にいた彫師に言及し板、見てみたいですね、当時のと言っていたのが印象深い。

 チラシの表を飾っていた北斎の『蛸と海女』をアニメーションによって動かし、さね頭からケツの穴まで吸って吸って…などという詞書を森山未來と吉田羊による天晴れな朗読で見せてくれた場面も好かったし、愛好家たちが男も女も交えて、個々の春画作品についてエロさの観点から忌憚のない談義を交わしている光景に宿っている大らかな愉しさが好もしかった。その『蛸と海女』に関連して、僕の書棚にも『性と芸術 不完全な人間の複雑で不思議な戯れについて―<幻冬舎>のある会田誠が自作の『巨大フジ隊員VSキングギドラ』について語っていたが、肝心の作品を映さなかったのは、なぜだったのだろう。
by ヤマ

'25. 6.21. 喫茶メフィストフェレス2Fシアター



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