『陽炎』['91]
監督 五社英雄

 五社作品はこうでなければと言わんばかりのオープニングのタイトルバックだったように思う。全裸の刺青女性【不知火おりん】が頭から水を被る行水姿が美しく映し出されていた。加えて序盤に、御座敷ショーとして外連味たっぷりにレズビアンが男女を装って絡む見世物が出てき、バブル時代の名残のような大盤振る舞いの画面が連なる映画だった。なにせ緒形拳が下っ端警官のような端役で顔見世する作品なのだ。五社英雄が第一作の監督をした極妻シリーズの岩下志麻もかたせ梨乃も登場するし、不知火おりんこと城島りん(樋口可南子)と並々ならぬ因縁で結ばれることになる大物博奕打ち、不動の常こと村井常次郎を演じているのは仲代達矢だ。

 いまノスタルジックに懐古されている“昭和の時代”を終えて間もない、平成初期に懐古的に振り返る昭和の時代は戦前の昭和初期で、本作も昭和三年春から始まっていた。見せ場は随所にあったけれども、やはりもろ肌脱いだりんが右肩に脚を斜めに切った大盃になみなみと注いで載せて、手本引の札を背後で繰るトレーニングをしている場面が最も目を惹いた。禍々しさと毅然の合体した凄絶な美があったように思う。おりんの悲劇は、大恩ある料亭八雲の主人 小杉(北村和夫)の一人息子で、幼い時分から義姉弟として育ってきた市太郎(本木雅弘)の盆暗さから始まっていたわけだが、ボンボン育ちの役立たず感を本木雅弘が巧みに出していたように思う。

 すると高校時分の映画部長がまさに肉体を愛でる映画なんやねぇ。何回も録画したディスクがあるのに、未だ観ていない。とコメントを寄せてくれた。僕の記述が誤解を招いたようだが、肉体を愛でるという点では、樋口可南子も荻野目慶子もボリューム感に乏しく、かたせ梨乃はキャットファイトを見せても脱ぎはしないし、そこが見どころとも言い難い作品だという気がする。それよりも、脇役の見せ方が好くて観応えがあったように思う。りんの義弟を演じていた本木雅弘のみならず、高品格【元ヤクザと思しき興行師の武州】にしても、川谷拓三【岩船組を率いる大滝岩蔵(白竜)に常次郎を紹介するヤクザ】にしても、竹中直人【女衒の安五郎】にしても、活き活きしていた。北村和夫や岡田英次【難波政組の親分】、川地民夫【岩蔵の胴師を常次郎に替えられた博奕打ち】も、いい味を出していたような気がする。また、観ました🤗見応えありましたです👏とのコメントを劇友女性から貰って驚いた。嬉しくなってしっかり作っちゅうよねー。品はようないかもしれんけど(笑)、凛としちゅうでね。と返した。
by ヤマ

'25. 2.18. BS松竹東急土曜ゴールデンシアター録画



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