『ロバと王女』(Peau d'Âne)['70]
監督・脚本 ジャック・ドゥミ

 過日観たばかりの『ミシェル・ルグラン 世界を変えた映画音楽家』の公開記念企画たる“ミシェル・ルグラン&ジャック・ドゥミ レトロスペクティヴ”の三作品のうちの未見だった映画だ。特に宿題にしていたわけではないが、この機会にと観賞。

 予告篇で観た“宝石を脱糞するロバ”からして、素っ頓狂な話だろうとは思っていたが、三十九年前にあたご劇場で『O嬢の物語 第二章』と共に観た『馬小舎の貴婦人』のような話ではよもやないだろうと思っていたら、父王(ジャン・マレー)が妻亡き後、実娘の王女(カトリーヌ・ドヌーヴ)に執拗に求婚を迫るというとんでもなさに吃驚。

 求婚に対して難題の貢物を要求するのは、竹取物語のようでもあり、赤の国の王子(ジャック・ペラン)による靴ならぬ指輪がぴたりと嵌る女性を探し求めての結婚は、シンデレラ物語のようでもあった。ただ、政略でも覇権でもなく純粋に恋情のみによる結婚という、王族には稀なる婚姻を果たすことによって、青の国と赤の国が純化されたかのように純白になる結末が目を惹いた。この意匠は、原作者たるシャルル・ペローにはないジャック・ドゥミによる潤色ではないだろうか。

 それにしても鮮やかな色遣いで、馬の色まで染め上げた色世界に圧倒された。森のなかに現れたリラの妖精(デルフィーヌ・セイリグ)の青い鏡面が気に入った。美しかった空の色のドレスはまだしも、月の輝きを持つドレスや、太陽の煌めきを放つドレスなど、なかなかの衣装だったようにも思う。

 歌と踊りはシェルブールの雨傘』や『ロシュフォールの恋人たちには及ばず、少々残念だったが、猫を被らずロバの皮を被って駈ける王女がなかなか妖しかった。その全身が大木の影に隠れる度に、次はロバになって現れるのでは?と思ったが、すっかり外されてしまった。そして、呆気に取られるヘリコプターや電話まで登場する実に素っ頓狂な話だった。

 すると、高校時分の映画部長から映画の出来は、シェルブールの雨傘>ロシュフォールの恋人たち>ロバと王女。歌と踊りは、ロシュフォールの恋人たち>シェルブールの雨傘>ロバと王女。ファンタジー度は、ロバと王女>ロシュフォールの恋人たち>シェルブールの雨傘、やったねぇ🙋💓とのコメントが寄せられた。同感だ。

by ヤマ

'25.12.10. キネマM



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>