『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』(Dreamin' Wild)['22]
監督 ビル・ポーラッド

 ともに実際に起こった出来事を題材にしながら、午前中に観たでっちあげ 殺人教師と呼ばれた男の些か遣り切れない観後感と、ファンタスティックで美しい本作との対照ぶりが印象深かった。それでいて両作ともに、当事者でなければ分からないことと同時に、当事者なればこそ見えなくなるものがきちんと描かれていた気がする。前者の日誌にも記した突飛な出来事に見舞われた人々の真実が、盆暗な日常を過ごしている者の想像域を遥かに超えるのは極めて当然のことであり、ろくに事象にも当たらない無責任な言辞や報道がどれだけ的外れなものであるのかがよく判る内容になっていたところが立派だと思った。

 三十年を経て脚光を浴びた兄弟ミュージシャンとしてのドニー(ケイシー・アフレック)とジョー(ウォルトン・ゴギンズ)の受け止め方の差異に納得感があったように思う。音楽が第一で細々とではあれ、ずっと音楽活動を続けているドニーと、すっかり生活者としての生き方に馴染み、音楽活動が思い出になっているジョーとの対照が印象深い。そのなかにあって、ドニーの抱える葛藤とジョーの見せていた包容力に感慨深いものがあった。

 映画の最後に、実際の兄弟にナンシーを加えて歌っていた♪When A Dream Is Beautiful♪の場面が好かった。両親の姿も客席にあったように思う。1,700エーカー(≒688ha)あった農場を切り売りし、借金で760エーカーを公売に掛けられ、65エーカー(≒26ha)になってしまっていた父親(ボー・ブリッジス)との対話の場面が素敵だった。

 すると、同じ監督の前作『ラブ&マーシー 終わらないメロディ』['15]もよかったですよと薦められた。タイトルには覚えがあるので、チラシは持っていそうだが、未見作だ。タイトルからすれば本作同様に音楽ものっぽいですねと返すと、先頃亡くなったビーチボーイズのリーダー、ブライアン・ウイルソンの人生を実験的手法で描いた伝記映画だとのこと。ビーチボーイズとなると僕は、どんぴしゃ世代ではなくて若干遅れを取る世代になるが、本作でも時の流れを自在に行き来していたように、かなり攻めた描き方で綴っていたので、興味を覚えた。
by ヤマ

'25. 7.23. 美術館ホール



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>