『デュオ 1/2 のピアニスト』(Prodigieuses)['24]
監督 フレデリック&ヴァランタン・ポティエ

 実話に基づくとの実話部分がどこまでかは知らないが、難病に見舞われてピアノを弾けなくなった双生児姉妹のピアニストの存在くらいなのだろう。あがり症の妹ジャンヌ(メラニー・ロベール)を幼い時分からカバーしてきたつもりでいた負けん気の強い自信家の姉が、先に発症したことで傷つき自信喪失する一方で、妹が自立し始める展開がよく、そのなかで描かれていたヴァロア姉妹の関係がなかなか素敵だった。再びピアノへの想いを実現させる過程で先導していたのは、自分のほうから積極的にピアノの指導教師への思いを表現するまでに変貌していたジャンヌのほうだった。また、失意の姉クレール(カミーユ・ラザ)に自作曲を贈る学友ダニエルの造形も好かった。そして、クレールを演じていたカミーユに、広瀬すずの面影があって驚いた。

 些か残念だったのは、本作のハイライトシーンとなる、著名な指揮者がタクトを振る協奏曲でのソリストを二人で務める“驚異的な(原題)”演奏会の場面で、クレールが突如、ステージに上がるのを拒み始めるエピソードの挿入の仕方だった。ここでステージに戻ったら、またヴァロア姉妹の一括りで見られるようになるだとか、いつも怪物を観るような目で観られてきたと零すクレールの台詞と葛藤は、それなりに必要があるにしても、この土壇場に持って来ることはなく、また、父親のセルジュ(フランク・デュボスク)が説く聴衆が観るのは怪物などではない、奇跡なのだよとの台詞も大事なものだが、この土壇場で劇的な形で持ち出すのは勿体ない気がした。何より、指揮者が本番までソリストを二人で務める異例の編成を知らずに指揮台に登るなどあり得ないように思えて少々興醒めた。

 気になったのは、ヴァロア姉妹の両親の夫婦関係が前日に観た八十年前のイタリアを舞台にした製作時期を同じくするドマーニ!愛のことづてと大して変わらぬように映って来たことだった。両作の母親とも、夫の遣りたい放題に唯唯諾諾であることを娘から咎められていた。

 上映後の話を聞いて主宰者サイトを確認すると、モデルとなったオードリー&ダイアン・プレネ姉妹の演奏を含む動画を紹介していた。「日本語翻訳にしてみると内容も理解できますよ」とのことだが、方法が判らず、続けて見つけた2013年の日本公演の動画を視聴した。手首に負担のかからない円運動を基本とした奏法だと映画でも語られていたが、なんだか太極拳の動きを観るような美しさを感じた。
by ヤマ

'25. 7.21. 喫茶メフィストフェレス2Fシアター



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