『カラオケ行こ!』
監督 山下敦弘

 歳を重ねるにつれ映画のヤクザの意気がりが気に障るようになってきているし、カラオケは若い時分から大嫌いだし、というところから、まるで食指が動いてなかった作品だが、映友たちから薦められて観に行った。山下監督作は、『リンダ リンダ リンダ』『マイ・バック・ページ』『苦役列車』『もらとりあむタマ子』『味園ユニバース』『オーバー・フェンス』と観ているが、映画日誌にしているのはマイ・バック・ページだけだ。

 はじめのうちは、なんじゃこりゃのカラオケ大会&刺青ネタに呆れていたのだが、成田狂児を演じた綾野剛の人物造形力に感心しながら、八年前に日本で一番悪い奴らを観て恐れ入ったことを思い出した。

 物語的にも面白くなったのは、ラブリーももちゃん先生(芳根京子)が生徒たちから3位になった理由を問われて少し足りなかったのは愛かなと答えていた“愛”が真っ当にキーワードとして浮かび上がって来始める展開を見せ出してからだったように思う。破格の天真爛漫をナチュラルに体現していた芳根京子に感心した。副部長の中川(八木美樹)が部長の岡聡実(齋藤潤)に寄せる想いの、率直で慎ましい表出にもなかなか心地好いものがあった。朴念仁の聡実が鈍くて気づかないことに苛立ったり挫けたりしない器量が美しい。

 合唱愛、友情、映画愛、さりげない夫婦愛、愛の核心は“損得勘定の無さ”にあることを、これ以上の卑近さはないと思われる素材に散りばめて、ほんわかした笑いと共に届けてくれる佳作だった気がする。そして、映画でもカラオケでも、他愛もない事柄に入れ込む姿というのは、バカみたいだけれど好いよなと改めて思った。

 高校の先輩が部長がヤケクソのようになって歌う「紅」もよかったですよね。それまで歌わなかったのは、声変わり中の喉をかばっていた、あるいは声変わりの現実に向き合えなかった、のかなぁ。それが歌ったのだから、狂児のことが好きなんだなぁ、と。と寄せてくれた。庇っていたというのもあるだろうし、歌っていて苦しい声になってしまうことへの不安やら、聞かれたくない思い(要は声変わりの現実に向き合えないということだが)が錯綜していたのだろう。聡実が歌い始めたのは仕方なくという面もあったような気がするが、歌い始めると、どんどん狂児への思いが湧いてきていたように思う。歌には、確かにそういう側面があるような気がする。




推薦テクスト:「ケイケイの映画通信」より
http://www.enpitu.ne.jp/usr1/bin/day?id=10442&pg=20240127
by ヤマ

'24. 1.31. TOHOシネマズ2



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