『ブルックリンでオペラを』(She Came To Me)
『ぼくは君たちを憎まないことにした』(Vous N'aurez Pas Ma Haine)
監督・脚本 レベッカ・ミラー
監督 キリアン・リートホーフ

 第204回市民映画会でのカップリングだ。先に観たのは『ブルックリンでオペラを』。原題は字幕では彼女が降りてきたと訳されていたように思う。彼女とは、曲が書けなくなった作曲家のスティーブン(ピーター・ディンクレイジ)にショック療法とも言うべき刺激を与えて復活させた恋愛依存症を訴える曳航船長カトリーナ(マリサ・トメイ)のことだった。

 人の世のルールやモラルとは何だろうと振り返らせるなかなかの作品で、誰も間違ってはなくて、みんな何処かハズれているのが人間だという実に真っ当な人間観のなかで、だからこそ、金科玉条ほど愚かしく不細工なものはないことを訴えていたような気がする。♪陽気に行こう(Keep On The Sunny Side♪は、先ごろ亡くなったばかりの高石ともやの歌唱で若かりし頃に愛聴していた歌だ。カトリーナに相応しい歌だと思った。

 邦題からてっきり音楽映画だと思っていたら、よくもまぁ、こんな話を考えたものだというコメディだった。魔女から女神になっていくカトリーナを演じたマリサ・トメイも、精神科医から修道女になるパトリシアを演じたアン・ハサウェイも、実に芸達者だから、コメディエンヌとしての魅力も充分に発揮していたように思う。

 続いて観た『ぼくは君たちを憎まないことにした』は、九年前にそのコメントが世界中で注目を浴びた際に、松本サリン事件の河野義行氏を想起した覚えのある、無差別テロ被害者遺族のアントワーヌ・レリス(ピエール・ドゥラドンシャン)の苦衷を描いた作品で、真情を綴ったというよりも克己心を鼓舞するために書いたという彼の本音と苦闘が描かれていて印象深い作品だった。

 今やうんち、オエのメルヴィルくんも十代になっているわけだが、どんな少年に育っているのだろう。

【レリスの投稿抜粋】
 君たちを憎まない。金曜(13日)の夜、君たちは素晴らしい人の命を奪った。掛け替えのない人、私の最愛の人、息子の母親を君たちは奪った。
 君たちが誰か知らないし、知りたいとも思わない。君たちは死んだ魂だ。憎しみという贈り物を君たちにはあげない。怒りで応じてしまったら、君たちと同じ無知に屈することになる。
 今朝、彼女と会った。金曜日の夜に出た時のまま、そして私が恋に落ちた12年以上前と同じように美しかった。もちろん悲しみに打ちのめされている。君たちの小さな勝利を認めよう。だが、それはごく短い時間だけだ。妻はいつもわれわれと共にいて、再び巡り合うだろう。君たちが決してたどり着けない自由な魂の天国で。
 息子と2人になった。もう、君たちに構っている暇はない。メルビルが昼寝から目を覚ますから一緒にいなければならない。まだ17カ月。この子がずっと幸せで自由に生きていけば、君たちは恥を知ることになる。だから、君たちを憎むことはしない。

日本経済新聞「過激派を「憎まない」 パリ同時テロ遺族の文章、共感呼ぶ」より。
https://www.nikkei.com/article/DGXLAS0040003_Q5A121C1000000/
2015年11月20日 11:57 (2015年11月20日 14:21更新)
by ヤマ

'24. 9.20. 高知市文化プラザかるぽーと大ホール



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