『エルドラド:ナチスが憎んだ自由』
 (Eldorado - Alles, was die Nazis hassen)
監督 ベンジャミン・カントゥ

 先ごろ観た関心領域の日誌で言及した「映像の世紀バタフライエフェクト『ワイマール ヒトラーを生んだ自由の国』」にも登場したキャバレー「エル・ドラド」をタイトルに冠したドキュメンタリー作品があるのを見つけて視聴したところ、なかなか面白かった。

 「証言者」というよりは「解説者」といった趣の幾人もが語る、ワイマールからナチス時代を経て戦後に及ぶドイツでのLGBTQ事情の複雑さが大いに目を惹いた。残されている記録映像や写真を映し出すだけではなく、再現動画や古いモノクロ素材に着色を施したものを混在させたことによる“時間の没境界性”とも言うべきものが、そのまま“性の領域の没境界性”とも重なって、ある種の混乱が脳内に来す感じに惹かれた。再現パートの酷似ぶりが利いていたように思う。

 とりわけ印象深かったのは、テニスの名選手として名を馳せたゴットフリート・フォン・クラムとリサ夫妻のワイマール的自由さが先ごろ読んだ『もう一人、誰かを好きになったとき』に述べられていたポリアモリーそのもののように捉えられていたことだ。また、百年以上前の時代における性適合手術の困難と成功事例が残されていることにも驚いた。性転換をすれば【同性】でなくなるわけで、差別の時代においても咎められなかったし、女装ではないことの証明書も発行されたとのこと。なんだか如何にもドイツ的な気がして興味深かった。

 戦前日本での女性だけが処罰された姦通罪のように、ドイツでは男性のみが処罰された同性愛禁止が刑法第175条に定められていたのは、ある意味、女性への無関心というか俎上にさえ載せない扱いのようにも思える。さまざまな自由を奪い、国家主義を邁進したナチスの行状が描かれるのみならず、いろいろ触発力に富んだ観応えのある作品だった。

 それにしても、ナチス以前のベルリンは、エコール・ド・パリ以上の奔放さで、ベル・エポックを超えた世界的な“狂乱の20年代”のなかでも、エルドラド【黄金郷】と呼ぶに相応しいゴールデンエイジだったのだなと思った。その分だけ、ナチスという破格のツケも回ってきたということなのだろう。
by ヤマ

'24. 7.11. Netflix配信動画



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