『悪魔のワルツ』(The Mephisto Waltz)['71]
『シークレット』(Secrets)['71]
監督 ポール・ウェンドコス
監督 フィリップ・サヴィル

 何の話の流れだったか忘れたが、ジェーン・フォンダとの関連でだったような気がする。バルドーの『素直な悪女』、ドヌーヴの『暗くなるまでこの恋を』、ソフィー・マルソーの『恋にくちづけ』、ジャクリーン・ビセットの『シークレット』『悪魔のワルツ』、カトリーヌ・スパークの『痴情の森』、ロミー・シュナイダーの『太陽が知っている』、ステファニア・サンドレッリの『山いぬ』『鍵』と旧知の映画部長に列挙したら貸してくれたもので、思い掛けなく観ることが出来た。これがジャクリーンの『悪魔のワルツ』か。

 人気ピアニストのダンカン・イーライ(クルト・ユルゲンス)が悪魔が愛人と踊ると表現していたフランツ・リストの♪メフィスト・ワルツ♪を原題とする作品だ。邦題を「メフィスト円舞曲」とはせずに敢えて悪魔としたところがいいと思った。

 おどろおどろしいオープニングタイトルからいきなり寝覚めのベッドで、夫マイルズ(アラン・アルダ)を起こして求めるも袖にされる妻ポーラ(ジャクリーン・ビセット)の姿で始まり、最後は、自らの命を絶ってまでしてダンカンの娘ロクサーヌ(バーバラ・パーキンス)の身体に乗り移り、マイルズを抱き締めて激しくキスを交わしながら笑みを漏らして終えていた。だが、既にマイルズは、白血病で余命幾ばくもなかったダンカンが悪魔との取引によって、ラフマニノフの手を持つ身体に惚れ込んで憑依していたのだから、マイルズを取り戻したとも言い難いところだが、マイルズの肉体を得て娘との父子相姦を続け得ていたダンカンに一矢報いたことにはなるし、何よりもポーラが求めていたのは、マイルズその人ではなく彼の身体だったのだから、紛れもなく所期の望みを叶えたことになるのは、マイルズとの離婚を勧める親友マギー(キャスリーン・ウィドーズ)の前で零していたマイルズが欲しいわ 彼が誰でも 欲しいのよ たとえもう一度だけでもという彼女の台詞を待つまでもないことだったのかもしれない。

 本作だけでなく、経験['69]でも確かな演技をしていたのに、どうもキワモノ映画のように観られることが多く、アメリカの夜『ベストフレンド』以外に作品に恵まれなかったにもかかわらず、記憶に残る美人女優として映画史にきちんと名を残しているのは流石だと改めて思った。

 ダンカンが主催する怪しげなパーティのサイケデリックな倒錯感や日本料理の場面に、'70年代作品のような'60年代作品のような、との感じを受けていたが、まさにちょうど真ん中と言える'71年作品だった。なかなか面白かった。

 すると、旧知の映友女性がこれは観てないなー。ビセットは、主演では作品に恵まれてないんですよね。あんなノーブルな美貌なのに、無駄脱ぎが多すぎるんです。私のアイドルなのに、切ないわ(泣)。『娼婦ベロニカ』の時は、50半ばくらいでしたけど、主演のキャサリン・マコーマックのお母さん役で、元高級娼婦役でしたが、娘より綺麗でした😃と寄せてくれた。『娼婦ベロニカ』は観ていないのだが、本作では、マイルズとのベッドシーンでの影のなかでチラリと覗かせるだけでなく、決して無駄脱ぎではない浴槽での自殺場面で、淡い色合いがとても美しい乳暈の豊かな乳房を見せてくれていた。二十六七歳の頃だ。ディスクを貸してくれた映画部長は、ちょうど『ザ・ディープ』['77]を観たところだとのことで、本作から六年後の秘蔵ポスターとしてトップレスに白いTシャツを着て潜っている姿の画像を送ってきてくれた。『悪魔のワルツ』での浴槽場面ほどには淡くはないように思われる彼女の胸が透けて見えていた。件の映友女性によれば、公開当時も、この手の売り込みばっかりでした。ビセット大好き少女だった私としては、本当に切なかったですよ。これも「クィーン・オブ・乳首」とか言われたのよね…。狙ってTシャツ着せたんですよね、監督は。断らないのよねー、この人。とのこと。そんな異名を取っていたとは、ついぞ知らなかったので、凄い命名だなと妙に感心してしまった。



【追記】'24. 9.30.
 既見のはずなのだが記録に残っていないので、確かめてみたいと言っていた『シークレット』を高校時分の映画部の部長が貸してくれた。ベッドから頭が逆さにずり落ちた態勢で諸手を垂らし、豊かな乳房を露わにした鮮烈なショットに見覚えがあるくらいで、他には1シーンも引っ掛かってこなかったから、今回が初見で間違いない気がする。

 妻が全て放り出したくなるときがあると洩らすような倦怠に見舞われた、一女をもうけている夫婦が、タイミングよく「秘密」を抱えて気を取り直す話だった。アバンチュールたるもの、かくあれぞかしと思える、いかにも'70年代的な作品だ。同年作の『悪魔のワルツ』でもそうだったが、圧倒的に美しい肌をしたジャクリーン・ビセットの裸身に観惚れた。しかも、こちらは紛れもなくベッドシーンが見せ場になっていたから猶更だ。

 暫くセックスレスが続いていたことを確かに偲ばせる渇望が窺えたアクメの後の脱力と満足感の現れ方、そして思わず私たち合う?と言いながら抱きついているジェニーの空虚を演じて、なかなかのものだったように思う。喘ぎ声だけ聞かせつつ部屋に置いた円形の鏡面に映る組み敷かれた姿をチラリと見せた後そのままカメラがベッドに向かうのではなく、壁面の姿見にジャクリーンのほうが上になった姿態をわずかに映し出し、再び下側に回る背面と尻を捉えて前述のベッドから頭がずり落ちるに至る長回しカメラが淫靡な妖しさを醸し出していた気がする。

 昼の火遊びの熾火がもたらしたものか疚しさゆえか、その夜に就寝前の読み聞かせをしてやっている夫にすぐに来る?と誘いかけていた。それを聞いて得も言われぬ笑みを浮かべていたアラン(ロバート・パウエル)が印象深い。ジェニー(ジャクリーン・ビセット)が洩らしていた結婚って大変…毎日中心を合わせないといつになっても2人の人間の中心を合わせるという表現の意味深長さが可笑しかった。あまりこなれた訳ではない気がするが、原語的にはどのようなニュアンスを帯びているのだろう。

 裕福な実業家のラウル(ピア・オスカーソン)から青色の手織絹布を贈られたジェニーこと妻のジェニファー・ウッド。就職面接官のべアトリス(シャーリー・ナイト・ホプキンズ)から銀の薬ケースを贈られていた夫のアラン・ウッド。コインランドリーで知り合った青年レイモンド(M・C・サーリー)からアゼリアの鉢植を贈られていた十歳に満たない娘のジュディ・ウッド(ターカ・キングス)。きちんと「秘密」を互いに交わしていたのはジュディだけだったが、秘密のまま通すことが出来るのは彼女だけだろうということだったのかもしれない。だが、少なくとも今一度の家族再生は果たされたのではなかろうかと思えるエンディングだったような気がする。
by ヤマ

'24. 7.10. DVD観賞
'24. 8. 8. DVD観賞



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>