『ワイルド・ビル』(Wild Bill)['95]
『バッド・ガールズ』(Bad Girls)['94]
監督・脚本 ウォルター・ヒル
監督 ジョナサン・キャプラン

 先に観た『ワイルド・ビル』はワイルド・ビルことジェームズ・バトラー・ヒコックの評伝作というわけだが、劇中で“英雄”とされるヒコック(ジェフ・ブリッジス)の「どこにヒロイックなものが?」と思わされる、いかにも'90年代ウエスタンだった。

 実にヘンな映画で、原作ものとはいえ、このジャック・マコール(デヴィッド・アークエット)の顛末は何なのだと呆れた。カラミティ・ジェーン(エレン・バーキン)との絡みは、なかなか面白かっただけに、ここのところをもっと描き込んでほしく思ったし、そのためには、ヒコックにとっての“永遠なる女性”であるスザンナ・ムーア(ダイアン・レイン)との関係の描出が物足りず、モノクロ画面そのままに、精彩を欠いていたように思う。モノクロ、セピア、カラーと色調を変えた画面がさほど効果的とも思えなかっただけに尚更に残念だった。

 また、カラミティ・ジェーンとワイルド・ビルの混浴場面や、もぬけの殻になった酒場のテーブルで大きく両脚を割って交わっている二人にマコールが銃を突き付ける場面が現われるなどとは思わず、呆気に取られた。そのマコールへの加勢を請け負っていたドニー・ロニガン(ジェームズ・レマー)の一味を配していたのは何ゆえだろう。まったく意味をなしていないような気がしたのだが、もしかすると、黒人カウボーイのビル・ピケットを思わせる黒人ガンマンのピケット(ストーニー・ジャクソン)を登場させたくてのものだったのかもしれない。

 '53年のカラミティ・ジェーンでは、彼女をドリス・デイが演じていたが、近年ではアニメーション作品['20]もあるようだ。最近のジェンダーフリーの立ち位置からの女性ガンマンものなのだろうか。ジェーン自身は自叙伝を残していたような気がするが、けっこうホラ話が多かったらしいので、脚色し放題という感じもあるのだろう。もっとも、ワイアット・アープにしろ西部劇の実在人物というのは誰彼なくそういう傾向にあるような気もする。おそらく日本の戦国武将なども似たようなものではないのだろうか。


 エレン・バーキンがカラミティ・ジェーンを演じていた『ワイルド・ビル』に続いて翌日に観た『バッド・ガールズ』は、チャーリーズ・エンジェルの三人を一人上回る“荒野の四人”とも言うべき、元娼婦の女ガンマンたちを描いた '90年代西部劇だった。娼館での派手なガン・ファイトから始まった本作は、アニタ(メアリー・スチュワート・マスターソン)の夫の没年が1888年で、ネリー・ブライの72日間世界一周の成功を報じる記事が映し出されていたから、1890年を舞台にした物語だ。

 コーディ(マデリーン・ストウ)がそれなりの腕前なのは、ならず者のキッド・ジャレット(ジェームズ・ルッソ)と共に、かつては強盗団としてならしていたようだから分からぬでもないが、残りの三人の堂々たるアウトローぶりが妙に可笑しかった。12,000ドルの預金と腕前を持つコーディをリーダー格に、オレゴンに亡夫の遺産の土地を持つアニタ、教養があって口の上手いアイリーン(アンディ・マクダウェル)、情と信義に最も篤いリリー・ラロネット(ドリュー・バリモア)の四人が共同事業を企てるという設えはなかなかいいのだが、コーディと訳ありのキッドの未練たらたらの腹いせ男ぶりが何ともいただけず、それに対するコーディの立ち位置が釈然としなかった。

 キッドの父フランク(ロバート・ロッジア)を追ってきたジョシュア・マッコイ(ダーモット・マローニー)とのコーディを巡る三角関係がもう少しこなれていると、もっとずっと面白い作品になったような気がする。アイリーンと納まるサークルT牧場のウィリアム・タッカー(ジェームズ・レグロス)はなかなかいい感じで、自分を欺いたアイリーンがぬけぬけと四人組で牧場の留守居を決め込んでいたことに地団太を踏みながら、アイリーンに惹かれる想いのままに歓待を決める場面が愉しく快かった。

 軍用物資の横流しにつけ込んで強奪を図るキッドたちにもう少し大義なり名分を与えたうえでの女ガンマンたちとの出し抜き合いの闘いにすれば、もっと気の利いた映画になっていたはずだ。

 それにしても、こうしてみると、'90年代になってもけっこう幅広く西部劇が製作されていたのだなと改めて思った。『ワイルド・ビル』に至っては日本では劇場未公開作だと聞き、些か驚いた。ウォルター・ヒル監督・脚本で、それなりのキャスティングもされているのに、よほど西部劇人気が衰退していたということなのだろうか。




【追記】'24. 1.24.
 DVD観賞で、『クイック & デッド(The Quick And The Dead)』['95](監督 サム・ライミ)を観た。
 カラミティ・ジェーンをエレン・バーキンが演じていた『ワイルド・ビル』とチャーリーズ・エンジェルの三人を一人上回る“荒野の四人”とも言うべき『バッド・ガールズ』を観たなどと言っていたら、女ガンマンものならこれをということで映友が貸してくれた作品だ。
 シャロン・ストーンがジーン・ハックマンより先にクレジットされる映画で、タイトルが打ち出された後にラッセル・クロウの名が刻まれ、キャストの最後にレオナルド・ディカプリオの名が単独で現れて目を惹いた。
 お話は不得要領なヘンな話だが、要は天下一武道会のようなもので、筋書よりは、キャラクターと場面を楽しむ作品なのだろう。シャロンの演じたエレンが峰不二子的悩殺を見せるのかと思いきや、キッドことフィー・ヘロッド(レオナルド・ディカプリオ)と一夜限りの情事の後朝の別れを交わしはするものの露出もなく、硬派のかっこよさを見せる役回りで意表を突かれた。脚の長さは天下一品だと改めて思った。せっかくシャロンを配しているのだから、峰不二子ばりのガンウーマンをやってほしかったが、まずは普通に面白く観た。
 元ならず者の牧師コート(ラッセル・クロウ)のキャラクターが不可解だったが、キッドの父親ジョン・ヘロッド(ジーン・ハックマン)は、それ以上に意味不明の訳の分からない存在だったような気がする。それだけに彼に確かな存在感を与えていたジーン・ハックマンに恐れ入った。
 銃弾を受けた人体に丸く穴が開いて先が見えるといった漫画的なカットや、獣の死体、墓場・棺桶といった道具立てがいかにもサム・ライミらしく感じたが、『スパイダーマン』以前に西部劇を撮っていたのかと妙に感心した。
by ヤマ

'24. 1.16,17. DVD観賞



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