『団地妻 隣のあえぎ』['01]
『悶絶本番 ぶちこむ!!』['95]
監督 サトウトシキ

 アテネ・フランセ文化センターから届く上映企画案内で三十年ほど前に「新日本作家主義列伝」と称して取り上げられていた、今や名匠の一人となった観のある瀬々敬久を含む“ピンク四天王”の佐藤寿保、サトウトシキ、佐野和宏のピンク映画については、これまで観る機会がないままに来ていたが、先ごろなん・なんだで病院長を演じている佐野和宏を観たと思ったら、思い掛けなく、サトウトシキの作品を見つけた。先ごろ観たばかりの高橋伴明による女刑務所 変態とは対照的に、全編69分の作品で女優が最初に下着を取るまでに15分近く掛かり、15分とはいえ流石に♪背中まで♪ということはないものの、腰痛持ちの夫(伊藤猛)に痛みが走り1分も経たずに中断されてしまうという、三階に住む黒田幸子(中川真緒)が主演の作品だった。

 隣室から喘ぎ声の漏れてくる五階の空き部屋で盗み聞きをしていてたまたま出会った、喘ぎ声の主の夫である石井(田尻裕司)と親しくなるものの、なかなかセックスには至らないという、『女刑務所 変態』とは逆の意味で挑戦的な映画で、ようやく石井と件の空き部屋で交わるに至っても、濡れ場は2分も続かない。ピンク映画だとは思えない程に露出を絞った作品ながら、単に“倦怠”では片付けられない二組の夫婦の“心のなかにできた空き部屋”を見つめる映画になっていたように思う。少々画質が悪かったものの興味深く観られたので、この野心的な脚本を書いたのは誰かと思ったら、ピンク七福神と称されていた覚えのある今岡信治だった。そこで、いつ頃の作品なのだろうかと調べてみたら、二十二年前の映画だったのだが、配信動画で少々不自然にクレジットされたタイトルの「団地妻 隣のヒミツ」ではなくて『団地妻 隣のあえぎ』が正しかったようだ。

 心にぽっかり空き部屋ができているように感じた経験は、十代の思春期くらいにしか記憶のない僕からすれば、失職した石井の虚ろも、ダンスが縁で結ばれたと思しき黒田夫妻が夫の腰痛でダンスからもセックスからも遠ざかるなかで味わっている虚ろにも、実感的な共感は覚えられないのだけれども、石井の妻(佐々木ユメカ)や黒田幸子とは違って、男たちの抱えていた寄る辺なさには、何処となく察しの付くものがあるように感じられた。男二人のまとっていたドンヨリ感が情けなくも味わい深かった。

 考えてみれば、家に男を引っ張り込んで情事を重ねていた石井の妻の浮気が結果的に、四人ともに相見互いの婚外交渉をもたらして、どうやら元の鞘に収まるブレイクスルーを果たした形になっていた気がする。空き部屋から隣室の自宅で喘ぐ妻の声を聴くのではなく、自宅できちんと抱き合っている石井夫妻と、その“隣のあえぎ”を聴きながら、空き部屋で緩やかなダンスをじっくりと味わっていた黒田夫妻によるエンディングは、なかなかいいじゃないかと思った。


 その六年前になる作品『悶絶本番 ぶちこむ!!』のほうは、『団地妻 隣のあえぎ』をなかなか面白く観たばかりだったところに、新たに見つけたものだ。「甘い痺れ~like a rolling stone~」というタイトルで配信されていたのだが、『団地妻 隣のあえぎ』と同じような感じだったので確かめてみると、案の定、劇場公開時のタイトルは、『悶絶本番 ぶちこむ!!』だったようだ。流通経路の関係でこういう妙なことが起こっているのだろうか。

 こちらのほうは、失職中の池山修司(本多菊雄)が前から一度やりたかったという、印刷会社の元同僚トミ子(吉行由美)の量感溢れる乳房が、開始三分経たずして画面に映し出される、いかにもピンク映画らしい作品だったが、まさに転がる石のように、同棲していた坂崎麻紀(南口るみね)の元にも、“都合のエエ女”との言葉を自ら口にするトミ子の元にも、また、住み込みの職をあてがってくれた中島印刷の娘佐知子(葉月螢)の元にも、惚れたと言い、働き甲斐も見出しながら、やはり居就くことが出来ずに彷徨ってばかりだった修司のあてどなさを描いていたような気がする。

 精を放って終わる男の性(さが)と受け留めて溜める女の性の違いを炙り出しているようにも感じられた。とはいえ、修司の親友シゲオ(田中要次)と付き合い始めた麻紀もまた、一級建築士で詩人としての投稿が詩誌に掲載されてもいるシゲオと、身体の相性が好さそうな修司との間を転がったりしていたから、男女の違いということでもないのかもしれない。

 部屋の壁に『ゴダールの決別』のポスターを貼ってある詩人シゲオの言葉としてワープロに映っていたまちがっている でも、ものすごくまちがっているわけじゃないだろうとのフレーズが、麻紀の口にも修司の口にも上っていたように思うが、何ともろくでなしの風情で最初は登場した修司の、そうとばかりも言えない“まちがっているけど、ものすごくまちがっているわけでもなさそう”な、何とも覚束ない人物像を本多菊雄がよく演じていたように思う。
by ヤマ

'23. 1.30. GYAO!配信動画
'23. 2. 3. GYAO!配信動画



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