『胸に輝く星』(The Tin Star)['57]
『牛泥棒』(The Ox-Bow Incident)['42]
『誇り高き男』(The Proud Ones)['56]
監督 アンソニー・マン
監督 ウィリアム・A・ウェルマン
監督 ロバート・D・ウェッブ

 一番先に観た『胸に輝く星』は、馬に乗せた死体を保安官事務所に曳いていく賞金稼ぎの男(ヘンリー・フォンダ)の姿から始まる作品で、モーグ・ヒックマンを演じたヘンリーが、僕的には珍しくも掛け値なしの恰好の良さを発揮していて目を惹いた。また、単純で真っ直ぐな若き保安官ベンをアンソニー・パーキンスが演じて、いささかの不気味さ怪しさをも醸し出していないのが妙に可笑しかった。

 元シェリフの訳あり賞金稼ぎによる保安官指南が主軸だけれども、先住民の夫を殺された白人女性ノーナ・メイフィールド(ベッツィ・パーマー)と息子のキップ(マイケル・レイ)母子との厚誼の重ね方が好もしく映って来た。最後にモーグが母子を連れて西海岸(だったような気がする)へと向かうという顛末を除けば、どこかシェーン['53]を想起させるところがあったように思う。

 ただエド・マクガフィ(リー・ヴァン・クリーフ)によるジョー・マッコード医師(ジョン・マッキンタイア)殺害の顛末は、もう少し丁寧に描くほうが好いような気がした。本筋ではないにしても、ただマクガフィ一味の悪辣非道を際立たせればいいわけではないように感じた。とりわけ私刑と法治の問題を提起する部分を含んでいる作品だけに、必要なことのような気がする。


 同じく“正義と法治”を問う西部劇で、同じようにヘンリー・フォンダの出演している十五年先立つ牛泥棒は、十ヶ月前に観たばかりだけれども、ついつい観てしまったものだ。牽強付会な解釈変更によって法治が損なわれ、人治に傾いている近年にあって、真摯な法治こそが必要であることを改めて思わせてくれる八十年前の作品だ。1885年ネバダ州とクレジットされて始まる物語に流れる レッドリバーバレー の意味するところは何だったのだろう。


 牛の群れのなかを胸にバッジを付けたキャス・シルバー(ロバート・ライアン)がゆっくり馬で歩んでくるオープニングで始まった『誇り高き男』は、命を大事にして最高齢保安官を目指すなどと軽口を叩いていた彼が、因縁ある若者サッド・アンダーソン(ジェフリー・ハンター)の律義さを見込んで後進に育て上げるという、『牛の群れ』とも『胸に輝く星』とも繋がる妙作だった。

 劇中の男の誇りは銃より命取りだという台詞さながらに、仇敵バレット(ロバート・ミドルトン)から窮地に追い込まれる保安官キャスがなかなか渋くて恰好のいい、正統派西部劇だったように思う。金回りのいい連中に向けた便乗値上げに勤しみ、バレットに易々と買収されていた町の有力者たちを前に法と秩序を語りながら心を売り飛ばすとの辛辣な言葉を発していたキャスを演じた、ロバート・ライアンがなかなか良かった。婚約者のサリー(ヴァージニア・メイヨ)から、命を狙われている危うい町から逃げることを再び求められて返す恥ずかしい人生は嫌だとの台詞が印象深い。

 一度は彼女の勧めに従ってキーストンでの保安官職を辞している経過に重みがある。助手だったジム(アーサー・オコンネル)が臨月を迎えた妻からの求めに応じて、治安の悪くなってきたフラットロックの保安官助手の職を辞したいと言ってきたときに、あっさりと甘受したのもそれゆえだろう。それと同時に、そうされることが如何に痛手なのかも身に沁みたに違いない。それがあっての恥ずかしい人生は嫌だだったような気がする。

 そして、翌日の裁判を前にして町を出ることを断ってフラットロックに踏み止まり、バレットの雇った殺し屋パイク(ケン・クラーク)たちを仕留めた後に、バレットの営む酒場に乗り込む際には、助手を辞していたはずのジムが銃器を手にして随行していたところが、いかにも正統派西部劇らしさを発揮している点だったような気がする。ジムもまた、パイクらの襲撃によって元同僚の老ジェイク(ウォルター・ブレナン)が殺害されたことに忸怩たるものを抱えていたのだろう。かつては腕利きガンマンであったことを偲ばせる寡黙なジェイクを演じていたウォルター・ブレナンに確かな存在感があったように思う。

 卑怯を何よりも嫌うサッドが亡き父の仇と聞いていたキャスと初めて出会ったときに流れた口笛による名曲が実に好く、最後にキャスの習慣をも引き継いで50セント硬貨を施すサッドの姿に思わずにんまりした。後進を育てるというのは、こういうことなのだろうとしみじみ思う。教え伝えたことを引き継がせるだけのことを指してはいないのだという気がする。いい映画だ。
by ヤマ

'23. 3.16. BSプレミアム録画
'23. 3.31. BSプレミアム録画
'23. 4.18. BSプレミアム録画



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>