『シェーン』(Shane)['53]
『明日に向って撃て!』(Butch Cassidy And The Sundance Kid)['69]
監督 ジョージ・スティーヴンス
監督 ジョージ・ロイ・ヒル

 ヴィクター・ヤングの名曲とワイオミングの素晴らしい風景と共に始まる『シェーン』は、僕の好む西部劇のなかでも一際格別の作品なのだが、【午前十時の映画祭】でのスクリーン観賞は逃していると思っていたら、十二年前の年末に観ていた。

 映画日誌にはしていないが、西部劇が好きだった亡父に幼い頃に連れられて観た、大人の映画として最初の作品だという記憶が残っている本作をスクリーンで観るのは、そのとき以来ではないかという気がする。アラン・ラッドの姿勢と身のこなしが素敵に格好いいと改めて思った。また、孫が三人も出来ている今の歳になって観ると、ライカー兄弟やウィルソンとの対決なんぞよりも、マリアン(ジーン・アーサー)を挟んだジョー(ヴァン・ヘフリン)とシェーン(アラン・ラッド)の三人の心の綾のほうが印象深い。 とりわけ妻が心を移したと察知したジョーの精一杯突っ張ったエエかっこしいの覚悟の決め方が、なんか涙ぐましく思えた。“男はつらいよ”ってとこなんかねぇー(笑)。などとメモしてあった。

 課題作に挙げてきた映画部長から「ワイオミング州が舞台なのに、何故アラバマ州の独立記念なのか」との問い掛けがあったのだが、おそらくは入植者仲間の農民たちの出身地なのだろう。早撃ちウィルソン(ジャック・パランス)に瞬殺されるトーリー(エリシャ・クック・Jr)は“南軍兵”と呼ばれていたし、ジョー・スターレットがライカー(エミール・メイヤー)からの嫌がらせによる脱落者を出さないことに執着したのも同郷の仲間ということが大きかったからのような気がする。


 頭脳のブッチ・キャシディことロバート・パーカーと、腕前のサンダンス・キッドことハリー・ロングボーをそれぞれ演じたポール・ニューマンとロバート・レッドフォードの仕草や身のこなしが実に絵になっている『明日に向って撃て!』を観るのは何年ぶりになるのだろう。スクリーン観賞の記録は記憶のなかにしかなく、民放テレビ視聴の記録は残していないので、確認ができない。

 三十年近く前に刊行してもらった拙著のなかで確か高校生のころだったと思うのですが、アメリカン・ニューシネマの名作として名高い『明日に向って撃て!』をすでに名のある作品として映画館で観て、思ったほど面白くないじゃないかと不満を覚えた後、ほどなくしてテレビで吹き替え版を観て、大層面白く、その会話の妙に感心した…P47)と述べているように、実は人を撃ったことがないというブッチ、泳げないと弱音を吐くサンダンスの軟弱ぶりも露わに、西部劇らしからぬ軽妙さで以て描き出す二人のコミカルな掛け合いの妙味は、やはり吹替え版のほうが相応しい気がする映画だ。

 そのうえで、課題作としてカップリングされた『シェーン』に続けて観ると本作の本分たるバディ・ムービーの側面以上に、26歳の独身教師と自称するエッタ・プレイス(キャサリン・ロス)を巡るトライアングルが印象深く映って来た。新時代の象徴として登場する“馬に替わる自転車”にエッタを乗せて興じ、彼女に先にあなたと会ってたら私に恋した?と言わせるブッチの彼女への想いが、シェーンの抱いていたマリアンとジョーに対する思いと重なるように感じられた。

 そして、新時代に対する拒否を暗示するかのような“打ち棄てられた自転車のクローズアップ”の後に続くボリビアに至る逃避行の果ての壮烈な野垂れ死には、『シェーン』で銃にものを言わせるライカーが、敵役ではあっても純然たる悪党としては描かれずに、お前に権利だと? 俺がこの地に来た時、お前はまだガキだった。厳しい環境に仲間はほとんど生き残れなかった。肩に受けた矢傷もいまだ痛む。俺たちが見つけて作り上げた国だ。血にまみれ、飢えに襲われ、インディアンに牛を盗まれたことも。俺たちのおかげでお前らは楽ができる。安全な土地だろう? 仲間の死の上に作り上げたんだ。お前らは犠牲も払わず住み着いて柵を作り水場から俺を追い出した。お前らが畑を作り水を引くから川が干上がり牛を移動させねばならん。俺に権利はないだと? 土地を作った者に権利はないのか?との台詞を残し、新時代から打ち棄てられる姿を描いていた作品だったことを想起した。

 吹替え版で観てみることを勧めていた映画部長からは「オススメに従い、日本語吹き替えで字幕を出して鑑賞したら、ブッチとサンダンスのカッコつけてるのに、カッコ悪さが際立って面白かったよ。」と喜ばれ、嬉しかった。画面だけで観ていたら恰好良すぎる二人のバディムービーとしての真価は、まさにそこにあるような気がする。決してシェーンとジョーほどの男伊達ではないのが、ワイルドバンチの二人の味だと改めて思った。だが、そうではありながらも、シェーンがジョーイの前で撃って見せた連射とサンダンスが南米で給料護衛に雇われる前に見せた連射にも、何か重なって見えるカッコ良さがあるところが、またいいのだと思う。

 そして今回、課題作としてのカップリング観賞をしたことで、随所に両作が重なって見えるところがあることに気づいたのが愉しかった。定番の酒場での派手な殴り合いシーンにも漏れのない西部劇の王道名品『シェーン』と、西部劇の定型を思いっきり外してきたニューシネマ西部劇の代表格には、かくも共通点が多かったのかと認識を新たにした。絶妙のカップリングだった。
by ヤマ

'23. 1.13,14. DVD



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