『偽りの忠誠 ナチスが愛した女』(The Exception)['16]
監督 デヴィッド・ルボー

 ヴィルヘルム2世復権工作を巡るスパイものを通じて、誰も易々とは信用できないタフな状況のなかで、信じるに足るか否かについて何を以て判断するかというのは、合理性によるものではなくて嗅覚的なものであることに納得感のある人物造形が施されていた作品だったような気がする。思いのほか面白かった。

 英国スパイのユダヤ人女性ミーカ・デ・ヨンク(リリー・ジェームズ)と元皇帝の警護隊指揮官ステファン・ブラント大尉(ジェイ・コートニー)のみならず、元皇帝の忠実な執事のようなジグルト大佐(ベン・ダニエルズ)と大尉との関係、ゲシュタポ警部補やヒムラーと大尉との関係も含めて、総てが疑心と探り合いから始まりながら、次第に道の分かれていくさまが興味深かった。ミーカが大尉に自分はユダヤ人だと表明した意図は、捨て身の試金石とも言うべきもので、女性における“捨て身”としてありがちな脱衣とは比較にならないインパクトがあるわけだが、捨て身ではあっても決して真から身を棄てているのではなく、期すところがあっての賭けのようなものだから、受ける側は、その期すところに打たれるというところなのだろう。大尉とジグルト大佐を繋いだものも、それに相当することだったような気がする。

 復権に誇りを掛けていたヴィルヘルム2世(クリストファー・プラマー)と夫の復権が打算でしかない妻ヘルミーネ(ジャネット・マクティア)の対照が利いていて、クリストファー・プラマーの演じた元皇帝の人物造形がなかなか好く、打算なき慧眼を滲ませていて見事だったように思う。誇り高く人間味のあるヴィルヘルム2世とはまるで対照的な、下劣で冷酷な人物造形において、親衛隊隊長ヒムラーを演じたエディ・マーサンもなかなかのものだったような気がする。

 原題は「例外」を意味するものだろうが、作中でミーカがブラントに言ったあれが今の正義。あなたは異端なのの異端が重なってくるように感じた。ミーカの台詞は、元皇帝との会食の席でヒムラーが露わにしていた余りに酷い“選民思想と特権意識に根差した冷酷な傲慢さ”を指して「あれ」と言っていたものだ。小道具としてのニーチェ著『善悪の彼岸』もなかなか利いていたように思う。
by ヤマ

'23. 3. 7. GYAO!配信動画



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