『理由』['04]
『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』(99 Homes)['14]
監督 大林宣彦
監督 ラミン・バーラニ

 手元にある公開当時のチラシに登場人物107人、その全員がノーメイク!!と記された、登場順に村田雄浩から始まるオープニングクレジットでの配役の錚々たる顔ぶれに恐れ入った。『ルート225』で初めて観たように思っていた多部未華子の映画デビュー作は、本作だったようだ。

 余りにもたくさんの登場人物によって綴られる本作を観ていると、バブル景気に踊らされたマンション投資の産んだ様々な落とし子こそが主人公であるように感じた。

 映画としてのスタイルは、大林的説明過剰それ自体を文体とするドキュメンタルな再現ドラマとカメラに向かったインタビュー回答としての説明によって構成された、かなり特異なもので、最初のほうは意匠としての興味深さもあったものの、「プロロオグ:信子」と「エピロオグ:幽霊」で挟んだ「事件・入居者・片倉ハウス・隣人たち・逃げる家族・病む女・買受人・執行妨害・家を求む・父と子・売家・幼い母・写真の無い家族・生者と死者・帰宅・綾子・再び信子・逃亡者・出頭」の19章160分の長尺となると、流石に少々倦んでくるようなところがあった。

 だが、話のほうは、原作に負うところにより、非常に面白かった。競売物件に対する占有屋なる違法スレスレの、いろいろな意味で人の弱みに付け込んだ阿漕な駆け引きが罷り通っている理不尽に唖然とした。だが、それによって執行妨害を仕掛ける早川一起(石橋蓮司)の訴えていた理不尽にも一理あって、とどのつまりは弱肉強食の“新自由主義”的利権収奪活動(巷間こんなものを“経済活動”などと称する輩もいるようだが…)が引き起こす悲劇を描出していたように思う。1996年と言えば、ちょうど先ごろ観たばかりのNHKドラマ照柿とも重なる。僕が三十八歳の時分の出来事ということになるわけだ。今や多種多様な闇バイトなるものが蔓延っているらしいのだが、本作が捉えていたのは、その先駆けのようなものだったのかもしれない。


 日本の競売物件に対する占有屋の手口を知った『理由』を観たところで、住宅ローンの焦げ付きによる差押物件を食い物にする商売を描いたアメリカ映画『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』を観てみたら、思いのほか面白くて感心した。

 非情と言うよりは強かな不動産屋リチャード・ガーバーを演じていたマイケル・シャノンがなかなか良かったように思う。自身が住居を剥ぎ取っておきながら、腕を見込んで雇用するばかりか、右腕にまで抜擢したデニス・ナッシュ(アンドリュー・ガーフィールド)に対して最後に言ったよくやったが、必ずしもフランク・グリーン(ティム・ギニー)を投降させたことをのみ指しているわけでもなさそうな、味のある人物造形が果されていた気がする。

 地道な不動産屋から汚れ仕事の追立屋になって大儲けをしているガーバーの言っていたこの国は負け犬に手を差し伸べない規制緩和をして馬鹿みたいにふんぞり返る政府勝者の勝者による勝者のための国だ。という台詞は、何もアメリカだけではなく、ほとんど属国のように追随している我が国にも言えることのように感じた。

 手元にある公開当時のチラシの裏面に記された1%の富裕層が世界の富を独占し、99%を貧困化させている―。との見出しの作品から、もう十年になろうとしているが、状況はますます悪化してきている気がする。
by ヤマ

'23. 3.3. GYAO!配信動画
'23. 3.5. BS松竹東急よる8銀座シネマ録画



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