『新・明日に向って撃て!』(Butch and Sundance: The Early Days)['79]
監督 リチャード・レスター

 先ごろ久しぶりに明日に向って撃て!』['69]を再見したこともあり、四十三年ぶりに再見してみたものだ。前回は、今はなき名画座で『荒野の七人』['60]との併映で観たのだが、その時点で既見作だった『荒野の七人』以上に面白く観たような記憶からすれば、少々拍子抜けするようなところがあって驚いた。

 無法者ではあっても、嘘はつきたくないと、釈放の条件として示された不再犯の誓いを拒み、この州ではやらないということでどうかと、取引で臨む若きブッチ・キャシディことロバート・パーカー(トム・ベレンジャー)の姿を序章として始まった本作は、自分が関与せずに決められた法などよりも、自身が発した言葉や約束のほうが大事で、姑息などには与しない信条こそが「男の誇り」だった時代の物語だ。

 今や跡形もなく失せてしまい、機を観るに敏で何が悪い、損得勘定の計算もできない者はただの馬鹿にすぎないといった言説を“本音”として公言することを憚らない恥知らずな輩が罷り通る時代になってしまっている。両方の時代を知る者としては、単純に昔がよかったとも思えないことも知っているだけに、嘆息を吐くばかりだ。

 サンダンス・キッドことハリー・アロンゾ・ロングバウ(ウィリアム・カット)との凸凹コンビぶりは、Early Daysだけあって『明日に向って撃て!』以上のものがありつつ、それぞれが生死の境目を彷徨いながら互いに見棄てることなく絆を結んでいく姿が描かれていたように思う。

 ただ、ブッチの妻メアリー(ジル・アイケンベリー)の元で、束の間の癒しのときを過ごす二人における彼女の存在が、後日譚『明日に向って撃て!』で印象深く映って来た、独身教師と自称するエッタ・プレイス(キャサリン・ロス)を巡るトライアングルにまでは至っておらず、やや印象が弱くなるきらいがあったような気がする。他方で、ブッチの息子たちとサンダンスの絡みは、『明日に向って撃て!』にはない味を醸し出していたと思う。
by ヤマ

'23. 2.19. BSプレミアム録画



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