『セクレタリー』(Secretary)['02]
『若妻の匂い』(La Bonne)['86]
監督 スティーヴン・シャインバーグ
監督 サルヴァトーレ・サンペリ

 十五年余り前に観た毛皮のエロス/ダイアン・アーバス 幻想のポートレイトが思いのほか面白かったシャインバーグ監督の未見作『セクレタリー』があったので観てみたら、秘書のリー・ホロウェイ(マギー・ギレンホール)が特異な出で立ちで仕事をしている、なかなかキャッチーなオープニングに感心したものの、そこから半年前に遡って始まる事の顛末の運びが実に緩慢で、すっかり退屈した。精神の病と絡めている設えには、今世紀の作品とは思えない古臭さがあるように思う。

 そこからの連鎖によって観てみた『若妻の匂い』は、五十五年余り前の学生時分に『スキャンダル』を三鷹オスカーでスクリーン観賞している、かの『青い体験』『続・青い体験』のサンペリ監督による六十余年前の作品だ。ソ連のハンガリー侵攻の年だったから1956年の物語で、製作時点から三十年前の政情不安定なイタリアを舞台に、性情不安定な若き富裕マダムの性的冒険を描いていて、思いのほか見映えした。

 両作に通じていたのは、SMではなくDS(Domination & Submission)なのだろうが、フェティッシュな映像センスと若妻アンナ(フローレンス・ゲラン)とメイドのアンジェラ(カトリーヌ・ミケルセン)の関係の変転模様の妖しい描出によって、『セクレタリー』よりも断然『若妻の匂い』のほうが目を惹き、湯上りにメイドから思わぬ愛撫を施されて、親指を咥えるアンナの風情がなかなか好かった。

 アンナを翻弄するアンジェラの人物像が実に得体知れずのまま終始し、全く釈然としない顛末で終える物語を観ながら、そのことが殆ど気にならなかったのが妙に可笑しかった。ヘンに筋を通した形になっていた『セクレタリー』との対照が結果的に効いてくる取り合わせになっていた気がする。
by ヤマ

'23. 2.15,16. GYAO!配信動画



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