『耳をすませば』(Whisper of the Heart)['20]
監督・脚本 平川雄一朗

 原作漫画にもジブリアニメ作品にも接していないが、配役に惹かれるところがあって観に行ったのだが、いろいろ感慨深かった。'88年から十年経った'98年の場面で清野菜名の月島雫が登場したので、'20年の雫はどうなるのだろうと思ったのだが、'98年の時代設定にしないとなるほど描けない世界だった。

 物語は原稿用紙に向かって手書きでものするし、スマホやケータイが登場せず、カード式公衆電話と葉書、手紙で遠距離恋愛を続けているという話だ。雫がイタリアに出向いて♪翼をください♪を歌う場面がなかなか素敵だった。日本から送られてきたと思しき雫の写真を部屋に並べていた天沢聖司(松坂桃李)が感じていたように、人生の進路を左右する転機の後押しをしてくれ、十年前の己が夢を実現させる礎を与えてくれた女性は、本当に特別な人で「いちばん大事な人」なのだろう。

 それにしても、中学2年から3年に掛けての一年余りの付き合いで、その後の十年を遠距離恋愛で貫徹するなどという、かなり現実離れした物語をアニメーション作品ならともかく実写で演じて、きちんと納得感を与えられる演技を二人が果たしていて驚かされた。とりわけ松坂桃李は、三十代半ばの中年域に入りつつあるのに、二十五歳の青年の瑞々しさを演じられるのだから、まったく恐れ入る。

 いかにもジブリアニメが似合いそうな少女的な生硬さが実写になると少々気になったが、アニメーション作品としてのカットを連想しやすい本作の謂れが功を奏してか、気に障るには至らず、恋愛劇からのセクシュアリティのジブリ的脱臭の見事さにむしろ感心させられたような気がする。

 また、午後のバドミントンに送迎してあげた職場の同僚で、アニメーション作品『耳をすませば』は自分が生まれる前の映画だという女性によれば、天沢聖司は、チェリストを目指してイタリアに行くのではなく、ヴァイオリン職人だとのことだったが、彼の夢をチェリストに変えたことで僕にとっては、最も好い場面として映って来たシーンができていたのだから、お手柄ではないかと思った。

 アニメーション作品のほうは、雫と聖司が中二で出会った1987年に生まれた僕の娘のお気に入り作品で、カントリー・ロードをよく口遊んでいたことを思い出した。あのとき、僕が十代の時分に録ってあったジョン・デンバーのカセットテープを再生してやって驚かれたものだった。この機会に'95年のジブリアニメのほうも観ておこうかという気になった。



『耳をすませば』追記('22.12.10.)ヤマ(管理人)
 アニメーションの『耳をすませば(Whisper of the Heart)』['95]をDVDで観る機会を得た。
 実写版の日誌に雫と聖司が中二で出会った1987年に生まれた僕の娘のお気に入り作品で、♪カントリー・ロード♪をよく口遊んでいたことを思い出したと記した映画だ。オープニングで流れた♪カントリー・ロード♪が先ごろ亡くなったオリビア・ニュートン=ジョンの歌声だったことに意表を突かれたが、物語そのものが初見にも関わらず既視感満載だったのは、後日譚を描いた実写版が元作をよく伝えていたからだろうと感心した。
 そのうえで、宮崎アニメらしい飛翔場面をニンマリしながら観つつ、背伸びしてよかったと語る雫【声:本名陽子】と天沢聖司【声:高橋一生】が二人で観る朝日の場面に限らず、随所に“特別の時間”が織り込まれた秀作だと思った。そしたら、脚本・絵コンテ、プロデュースには宮崎駿とクレジットされたものの、監督は近藤喜文となっていて、オープニングのオリビア同様に意表を突かれた。緑柱石のような原石の緑色の煌めきを実物で観てみたいと思う。
by ヤマ

'22.11. 5. TOHOシネマズ9



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