『トンネル 闇に鎖された男』(Tunnel)['16]
監督・脚本 キム・ソンフン

 かねてより宿題のドイツ映画『トンネル』['01]のつもりで録画していたら、六年前の韓国映画だったが、思いのほか面白くて驚いた。インフラ整備に係る公共土木工事の手抜き施工は本当に許し難いものだと改めて思った。

 並外れた冷静さとタフさを備えていた自動車セールスマンのイ・ジョンス(ハ・ジョンウ)が、何日間も耐えて待った掘削孔の掘り当てた場所が見当違いだったと知らされて憤怒の雄叫びを上げる場面の迫力に、一際その想いを強くさせられた。7基設置しなければならない送風機が6基にされたために3番送風機の設置個所が設計図どおりではなくて、掘削箇所を誤ったということだった。

 絶望的な被災状況にありながら、妻(ペ・ドゥナ)や同じ憂き目にあった被災女性ミナ(ナム・ジヒョン)への気遣いを持ち続けていたイ・ジョンスもさることながら、彼に待っていろと言ったのは俺だと、確か180mに及ぶ掘削孔を降りていった救助隊長のキム・デギョン(オ・ダルス)が良かった。我が身を以て飲尿を試してみるところなんざ、見上げたものだ。

 だから、三十五日を経て救助されたジョンスがかぼそく発した第一声を教えろと囃し立てていたマスコミ取材陣や劇的な救出の政治的利用を企む公職者たちに向ってお前ら全員クソだと言ったのは、紛れもなくデギョンの本音であってジョンスが言ったことではなかったのだけれども、それに対して我が意を得たりとジョンスが親指を立てたのだと思っていたら、デギョンが始末書を書かされているくだりでジョンスの言ったことを伝えただけなのにとぼやいたりしていて、意表を突かれた。だが、それでも僕は、始末書にはそう書いたと言っているだけであって、本当は彼自身の言葉だったに違いないと受け止めている。

 ストックしてあるチラシの束を探ってみたら、公開当時のものを見つけたのだが、裏面に“各界著名人が大絶賛‼”とあるなかに、奇しくも韓国映画の本気。韓国映画の機動力。容赦ない物語の片隅にある小さな希望。ハ・ジョンウもペ・ドゥナも素晴らしいが、隊長役のオ・ダルスに泣く。韓国には本当にいい顔した、いい役者がいる。 三留まゆみ(イラストライター)とあって、我が意を得たりと小膝を打った。
by ヤマ

'22.11. 1. BS松竹東急よる8銀座シネマ録画



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