『ふくろう』['03]
監督・脚本 新藤兼人

 折しも清作の妻を再見し、改めて新藤兼人の脚色に感心させられたことから、かねてより気になっていた未見作をようやく観た。なんじゃこりゃのオープニングに魂消ていたら、呆気に取られるような話のなかに、ユミエ(大竹しのぶ)の台詞にもなっていたあぁ~、もどかしいとの作り手の想いが込められていて、これが九十歳を過ぎた作り手の作品かと圧倒された。二十一世紀になってもこの有様かとの思いを老作家に抱かせる日本の状況があっての一九八〇年だったように思う。

 ユミエを引き揚げ者として登場させるぎりぎりの年であるとともに、バブル前夜というあたりに大きな意味があったような気がする。自民党をぶっ壊すとのスローガンを掲げた小泉内閣の出現が、今に至る日本社会の破壊の第四コーナーだったような気がしているが、その第三コーナーは間違いなく、バブル経済に浮かれた時代だったように感じている僕には、そのように思えて仕方がなかった。

 最初の餌食になったダム工事の土木作業員(木場勝己)の断末魔は豚の鳴き声で、次の餌食の電気工事士(六平直政)が牛の鳴き声だったから、三人目の土木作業員(柄本明)は鶏だろうと察したら、馬に外されて苦笑したが、その次の餌食となった水道屋(田口トモロヲ)は案の定、鶏だったように思う。

 ユミエの歌う♪かえり船♪や、泣きなさい 笑いなさいの♪花♪の歌詞に込められた哀切は、脚本・監督を担った新藤兼人のなかにある想いなのだろう。それにしても、BS松竹東急コードの暈しの無粋には毎度のことながら興醒めさせられる。エミコを演じた伊藤歩は、どう感じるのだろう。手元にある当時のチラシによれば、大竹しのぶがモスクワ国際映画祭最優秀主演女優賞を受賞している作品のようだが、そのチラシに大胆で思いきりのよい演技で娘役の伊藤歩も頑張ると記されている演技に傷をつけた放映が残念だった。

 新藤兼人の映画は、若い時分の作品からパワフルで前衛的だったように思うが、晩年になっても衰え知らずの意気軒昂に恐れ入った。大竹しのぶによる山姥ものとしての妖怪ぶりにも感心したが、妖怪以上の怪物新藤兼人の脚本が何と言っても凄くて、呆気に取られた。




推薦テクスト:「やっぱり映画がえいがねぇ!」より
https://www.facebook.com/groups/826339410798977/posts/5061946107238265/
by ヤマ

'22.10.28. BS松竹東急よる8銀座シネマ録画



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