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『事件』['78] | |||||
監督 野村芳太郎
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これが『事件』か!と圧巻のキャスティングに観惚れていた。そして、いかにも新藤兼人の脚本らしく女性の凄みが利いてくる映画だと思った。大岡昇平の原作小説は未読ながら、かほどに女の凄みと健気が印象づけられる作品ではなく、十九歳の未成年少年の起こした事件と少年法の問題に焦点が当てられていたのではなかろうか。 また、本作に描かれたような、男に向けるひたむきさと、姉妹の陰鬱なまでの鎬の削り合いを見せる女性像というのは、'70年代までのもので、'80年代以降には失われたもののような気がした。今の若者たちが観ると、ほとんど時代劇のような様相なのではなかろうか。 それにしても、さすがの大竹しのぶ。同い年の幼馴染のヒロシ(永島敏行)を姉から寝盗って妊娠する十九歳のヨシ子を演じて、あどけなさのなかに強かな怖さを密やかに宿らせる恐るべき二十歳過ぎだった。そして、当時、二十代半ばの松坂慶子にも唸らされた。ヒロシからもヨシ子からも「ねぇちゃん」と呼ばれる四歳上のハツ子には、彼女が演じればこその哀れと艶が年端のいかない貫禄とともに宿っていた気がする。 対照的なまでに、見るからに全てにおいて未熟そのもののようなヒロシが、ハツ子とヨシ子の姉妹から体当たりを食らって翻弄されないはずがなく、ものの見事に、菊池弁護士(丹波哲郎)が花井先生(山本圭)に「よくあることだよ」と一言で片付ける悔恨と罪悪感に囚われる顚末に至っていた。 佐分利信の演じる裁判長の堂々たる重鎮感も見事だった。岡部検事を演じる芦田伸介を圧倒していたように思う。今この三人の裁判官・検事・弁護士に匹敵する重厚さでもって法廷劇を現出させられる配役は、とても思いつきそうにない。 衛星放送とはいえ、フリーのテレビ放映だから御時世には逆らえないのだろうが、女優の裸の胸に悉く暈しを掛けていたBS松竹東急コードが、女体美や映画作品への安直な冒涜のように感じられて、甚だ無粋だった。濡れ場以上に、トップレスダンスを出し物にしているキャバレーの場面が実に無惨で、画面の随所で暈しが揺れ回って、遠い昔に観たきりの『カリギュラ』['79]を想起させられた。生身ではなく彫像に対してはまるで無頓着な対照ぶりまでもが同じで滑稽だった。ただ『カリギュラ』は性器・陰毛で、本放送は乳房というかなり大きな違いがあるけれど。 | |||||
by ヤマ '22. 9.27. BS松竹東急よる8銀座シネマ録画 | |||||
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