『俗物図鑑』['82]
『スタア』['86]
監督 内藤誠

 筒井康隆原作による同一監督の映画化作品を続けて観た。先に観た『俗物図鑑』は、僕が大学を卒業して帰郷した就職一年目に読んだ覚えのある小説で、書棚に新潮文庫が収まっている。けっこう面白く読んだ記憶があって、映画化作品はずっと気になっていた。

 当時はまだ今のように、ありとあらゆる分野に渡って「評論家」を標榜する人物がメディアに姿を見せるということがなかったけれども、今や総ての分野に専門家ありということのほうが常識と化している感がある。こういったことについて「家」と称するだけの評論活動が成り立つのだろうかとの疑念を促されるような御仁がテレビに出演し始めたのは、もう随分と前のことのように思うけれども、そういった現象を誘発したことに、本書は少なからず貢献していたのではないかという気がする。

 とても専業でやれるはずはなさそうなものに対して専門と言うのもおかしな話なのだが、現代メディアには言葉に対する節操など微塵もなくなっているから、字義など一顧だにせずにそういった物言いによって折り紙をつけてしまうことが実に嘆かわしい。その胡散臭さから言えば、俗物図鑑に登場する“評論家”たちの精通ぶりは、論評に留まらぬ身を挺したもので、口先だけで専門家などおこがましいとの風刺がなくもない。けれども、本領はそんなところになどないことがあからさまな、ふざけた遊び心が本作の持ち味であって、そこに呆けることを愉しむような作品だった。

 オープニングクレジットのキャストに居並んだ業界人の面々に意表を突かれ、作り手の交遊名簿がそのまま配役になったような、いかにも感にも唖然とした。唯一、当時でも実際に職業として認知されていた評論家である“文芸評論家”を演じていた四方田犬彦が、まさにこういうキャラが嵌っている山城新伍の演じる“反吐評論家”の片桐孝太郎に抗する形で出演しながら、思いのほか健闘していて可笑しかった。その山城新伍と、梅毒、淋病、軟性下疳、鼠径リンパ肉腫の4大性病総てを同時に罹患することを自身に課した“性病評論家”の女医歌川華子を演じた朝比奈順子が目を惹いた。

 しかし、朧げな記憶ではあるけれども、原作小説からして終いには収拾がつかなくなっていたような気がするから、映画化作品の最後がこういう始末になるのも、ある意味、相応としたものだろうと了解しながらも、原作小説を再読してみたくなるほどの牽引力は宿っていないように感じた。


 続けて観た『スタア』は、十代時分に贔屓だった水沢アキに、配役トップにクレジットされる主演映画があったのかと思い掛けなかった。『俗物図鑑』の内藤誠・桂千穂の脚本コンビに原作者の筒井康隆が加わった前作以上のハチャメチャ映画だったが、俗物図鑑という変人カタログと違って、スタアにまつわる“ありがちな裏事情”では、趣向としての珍味にはかなりの開きがあったように思う。ドタバタ度では勝っていた気がするけれども、いかにも冴えない作品のように感じたのは、製作も担って出演し、地震研究所長の犬神博士を演じていた筒井康隆の無駄に歪な怪演にあったような気がしなくもない。

 売れっ子歌手の杉梢(水沢アキ)の作曲家先生を演じていた山下洋輔の若さに驚き、俳優島本匠太郎(原田大二郎)・梢夫妻の隣室に住むじゅんを演じていたのがイヴで、そう言えば、あの時分、ノーパン喫茶の女王として名を馳せた後、芸能界デビューしていたことがあったのを思い出した。なにせ三十六年前の映画だ。

 そして、芸能人と芸能記者の関係における距離感が、思いのほか近い形で描かれていることが興味深く、目を惹いた。
by ヤマ

'22. 8.28. DVD観賞



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