『ヤクザと憲法』['15]
監督 圡方宏史

 手元にあるチラシに暴力団対策法から20年―「社会」の淵が見えてきた。とある宿題ドキュメンタリー映画を七年越しで、憲法記念日に観た。

 暴対法ができるきっかけになったという抗争事件の首謀者として逮捕されてから出所するまで二十二年間拘束されていたとの説明のあった二代目清勇会会長である川口和秀の思惑も働いてか、ある意味、私生活よりも却ってなかなか目にすることのできないと思われるヤクザの公的な日常生活がカメラに収められていて、とても興味深かった。

 部屋住みヤクザの寝泊まりする大部屋に置かれていた書棚に思いのほか蔵書が多く、鞄から本を取り出したりしていたヤクザの姿が目を惹いた。インテリジェンスを備えていると感じさせる会長の影響なのかもしれない。

 ヤクザたちは、着替えをする際に肌着を脱ぐと俱利伽羅悶々が現われてくるけれど、普段の生活は、そこいらのおっさんと変わりのない顔を見せていた。と同時に、何かの拍子には肌着の下の刺青同様に普通の人にはない類の眼付や声色がひょいと顔を覗かせるようなところがあって、やはり怖そうな人たちだ。

 組事務所への家宅捜査に入った警察から制止されても食い下がって撮影しようとしたり、清勇会の本家筋の東組の組員から撮影を制止されても顔が写らないよう伏せつつカメラを回していたりと、けっこう根性が座っていたように思う。

 これが山之内弁護士か、と山口組顧問弁護士を公然と名乗った弁護士の話し方に感心し、過日観た死刑弁護人の安田弁護士と同様に静かで、また、かなり異なる熱量を湛えた弁護士姿が印象深かった。安田弁護士とは違って、仲が上手くいっていないという理由から家に帰っていないと答えていた山之内弁護士は、本作の最後の時点で弁護士資格をはく奪されたようだから、この後、おそらく離婚しているのではないかと思った。

 数日前に観た『死刑弁護人』の映画日誌にあれから十年、犯罪の厳罰化にのせた国権強化の空気は随分と世の中に浸透してきてと記したことの初期の代表格がある意味、改正暴力団対策法だったのかもしれないと思ったりした。改正法には直接明記されていない禁止事項を都道府県条例によって具体化し、ある意味、国権を忖度する形で「対策」から「排除」に替えて明言した暴力団排除条例が施行されている。これにより、就職、契約、借金、銀行口座の開設、部屋の賃貸などから「排除」され、組織の活動のみならず、構成員の人権に属する領域からも排除されるようになって、本作の標題になったということのようだ。
by ヤマ

'22. 5. 3. 日本映画専門チャンネル録画



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