『ガン・ホー』(Gung Ho)['86]
監督 ロン・ハワード

 本作の製作総指揮も担っていたロン・ハワードに日本の劇場未公開作のトンデモ映画があると仄聞していた作品だ。これがその『ガン・ホー』かと失笑しつつ、侮れない時代性の核心を描き出してもいて、けっこう感心した。三菱がロックフェラー財団のシンボルとも言うべきセンタービルを買い占めてジャパン・バッシングの火に油を注ぐことになった年の三年前の作品なのだが、まさに日本が世界随一の金満国で日本人はよく働き、生産性も高いと言われていた時代の映画を観ながら、今や隔世の感があるように思った。

 冒頭いきなり当時の日本の光景が現われ、圧惨自動車のモーレツ研修が映し出される。アッサン・モーターズを圧惨自動車と書いてあったことにかなり驚いたが、確かに、あの時分、企業研修の猛烈さが、個を否定して人間性を奪い、会社人間に作り替えることを以て“自己啓発”などと言う洗脳教育に他ならないとも批判されていた気がする。もっとも、工場長になって不況による工場閉鎖の続くアメリカに乗り込んできた高原カズヒロ(ゲディ・ワタナベ)によれば、あれは管理職への登用研修だったようだ。

 その高原が朝の一斉体操を始めとする日本企業的お仕着せ労務管理を浸透させようとして苦労しつつ、圧惨自動車の工場進出を求めて来日までした職長ハント・スティーヴンソン(マイケル・キートン)との関わりのなかで自己に目覚めるようになり、畏れ多い社長の坂本(山村聡)に対して日本企業での働き方について、上の言いなりだ、このままではダメになると告げた言葉が印象深かった。三十六年前の台詞が警告したことがまさに実証されているような今を生きていると、笑うに笑えない気がしてきた。

 エンドロールに流れていた歌がどうやらクレジットにあった♪working class man♪のようだが、歌詞に神とエルヴィスを信じる労働者階級の男とでてきて、アメリカにおけるエルヴィス人気の程を知るように感じた。いつの歌なのだろうと調べてみたら、本作の前年1985年の歌だった。先ごろ観たばかりのエルヴィスでも示されていたように、彼の死は1977年だから、死後八年後の歌ということになる。いろいろな点で、なかなか興味深い映画だった。

 ネットの映友によれば、本作にはテレビシリーズがあり、そちらはひどく日本を馬鹿にした作品らしいのだが、あの時代に製作したのであれば、そうなってもおかしくないような気がする。元からあるアジア人への差別感覚の上に経済的圧迫による憤懣が溢れていたらしい時代だった覚えがあるからだ。そういう意味では、最後にはアメリカ人労働者たちが勢揃いして朝の体操をするようになる結末を施していたロン・ハワードは、大したものだ。もっとも専らドメスティックな視聴者想定のテレビシリーズと海外戦略が前提となっている映画作品とでは、自ずと描き方が違ってくるという側面も無視できない気はする。




推薦テクスト:「やっぱり映画がえいがねぇ!」より
https://www.facebook.com/groups/826339410798977/posts/4988905301209013/
by ヤマ

'22. 7.31. BS松竹東急よる8銀座シネマ録画



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