『シラノ』(Cyrano)
『或る剣豪の生涯』['59]
『愛しのロクサーヌ』(Roxanne)['87]
監督 ジョー・ライト
監督・脚本 稲垣浩
監督 フレッド・スケピシ

 シラノをジェラール・ドパルデューが演じたシラノ・ド・ベルジュラック['90](監督 ジャン=ポール・ラプノー)を観たのは、もう三十年前になる。オーソドックスな造りが風格を醸し出していた同作とは対照的に、当時話題になった『ジャングル・フィーバー』['91]を想起させる今回の『シラノ』の配役を観ながら、古典劇のミュージカル作品においてこういう役者起用が普通にされるようになったのか、との感慨は覚えたけれども、オープニングで示された、パパ活娘ロクサーヌ(ヘイリー・ベネット)にも、自己顕示と不遜が目立つシラノ・ド・ベルジュラック(ピーター・ディンクレイジ)にも、魅力を感じないどころか、少々げんなりしてしまったことが尾を引いて、余り楽しめなかった。

 ただ、オープニングのパパ活ぶりが作用してか、言葉偏重の恋愛模様というのは、意外と当節の出会い系かれこれや、ツイッターでの言辞が世の中を動かすほどの影響力を発揮するようになってしまった現代社会に似合っているのかもしれないとも思った。

 歌曲の魅力にも乏しかったように思うし、なにせ少なかった気がする。折角ミュージカルにしているのだから、もっと歌ってほしかった。また、恋愛を巡るかれこれの歌よりも、戦場で玉砕覚悟で戦闘に赴く兵士たちが家族を想って歌っていた歌のほうがよほど沁みてきた。少々穿った観方をすれば、男女の色恋にいう愛なんぞ美辞麗句に浮ついた下心だと、些か冷ややかに眺めた作品のようにさえ思える気がしなくもない。


 英語ミュージカルではなく日本の時代劇に翻案した六十余年前の『或る剣豪の生涯』を観たのは、ちょうど八年前になる。かの出雲阿国を三好栄子が演じているオープニングに驚かされ、長口舌をふるう駒木兵八郎を演じる三船敏郎の名調子に感心しながらも、なんだ三船のこの鼻は?と驚き、コメディをやっているのかと思ったら、しばらく経った十郎太(宝田明)の恋路の手伝いをする段になって、ようやくシラノ・ド・ベルジュラックであることに気づいたのであった。

 序盤の阿国歌舞伎の舞台での長口舌と中盤の十郎太に替わって宵闇のなかで延々と語る恋情、ラストの瀕死のなかで強がりつつ千代姫(司葉子)に語る末期の想いの場面が本作の三大見せ場だと思うが、徹頭徹尾、三船敏郎の独壇場だったような気がする。

 物語が面相に関わるものだけに、阿国に三好栄子を配してあったのかと感心し、酒のために徳川方に身を売ったと騙って兵八郎を罠に掛ける赤星左近(平田昭彦)を配したことで、兵八郎が自分がずっと守ってきたものとして千代姫に語る“心意気”が生きてくるようになっていたように思うが、兵八郎が左近に諭した「心を綺麗にしなきゃいけない」というような台詞は、今どきの映画にはもう出て来なくなっているような気がした。そういうところも含めて、やはり東宝の時代劇だなと思った。大映や東映だとフランス騎士の物語を翻案するような時代劇は作らないような気がする。


 現代劇に翻案した三十五年前のハリウッド映画『愛しのロクサーヌ』は、『シラノ』を観た勢いで観た未見作だ。シラノがチャールズになり、ベルジュラックがベイルズになったシラノ・ド・ベルジュラックだが、現代劇に置き換えたことで却って、クリスチャンならぬクリス(リック・ロソヴィッチ)はもとより、ベイルズ(スティーヴ・マーティン)にしろ、ロクサーヌ(ダリル・ハンナ)にしろ、浮世離れしたキャラクターの未熟感が強くなってしまい、コメディ仕立てにしただけでは覆いきれないものがあるように感じられた。

 いくらロクサーヌを演じるのがダリル・ハンナだからといって、いかにも『スプラッシュ』を思わせる“すっぽんぽんで街を徘徊するエピソード”で登場させながら露出は殆どないオープニングに、何がしたかったのだろうと訝しみ、以降、繰り出されるギャグにほとんど笑えないままだったことが響いたようだ。コメディというのは、なかなかビミョーなもので、笑えるか笑えないかの差があまりに大きくて、どちらに転ぶかが実に決定的なものになる気がする。

 それでも、ラストのベイルズとロクサーヌが階下と階上の位置を違えたなかでのロクサーヌの告白場面には惹かれるものがあったように思う。言葉の巧みなベイルズの美辞麗句に惹かれたのではなく、彼の言葉によって開かれた新たな自分への発見に心が動いたというのは、思わぬ秀逸さを湛えた修辞だと感心した。そして、鼻が閊えてワイングラスでは上手く飲めないベイルズの頭に手を当てて傾がせ、大きな鼻を避けて唇を重ねたロクサーヌによる逆『誰が為に鐘は鳴る』の場面は、なかなか好かったような気がする。




『愛しのロクサーヌ』
推薦テクスト:「やっぱり映画がえいがねぇ!」より
https://www.facebook.com/groups/826339410798977/posts/4413146342118248/
by ヤマ

'22. 3. 5. TOHOシネマズ2
'14. 3. 8. ちゃんねるNeco録画
'22. 3.14. BSプレミアム録画



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