『トラ・トラ・トラ!』(Tora! Tora! Tora!)['70]
監督 リチャード・フライシャー、舛田利雄、深作欣二

 公開時にスクリーン観賞して以来の再見だから、五十二年ぶりとなる。骨太の映画だった記憶があるが、半世紀ぶりに再見して改めてなかなかのものだと思った。折しもロシアによるウクライナ侵攻が行われたタイミングで観ることになって、軍事が政治次第であることを思わずにいられなかった。プーチン大統領がウクライナ東部の独立を一方的に承認したかと思うと、間髪入れずにウクライナ全土に攻撃を仕掛けたことに対し、九十年前に日本が行った満州国建国と中国戦線の拡大を想起したなかで観たから、ひときわ響いてくるものがあったように思う。国家間の緊張関係においては何よりも情報戦が重要だということと、ミスやアクシデントは必ず起こるということだ。また、僕の日米戦観に本作が及ぼしていた影響を再認識させられるようなところが随所にあった。

 そして、アメリカとの合作映画なのに、日本の政治家の若き軍人時代を妙に持ち上げているように感じられる部分を不思議に思ったことを思い出した。三橋達也の演じた源田實海軍中佐のことだが、真珠湾攻撃を成功に導いた立役者として、第一次攻撃隊を率いて映画タイトルの「トラ・トラ・トラ!(我、奇襲ニ成功セリ)」を発した淵田海軍中佐(田村高廣)以上に重要視されていたように思う。映友によれば、戦後、淵田中佐はクリスチャンになり、上半身裸で頭を掻き立てながら作戦を練りながら源田案に返って来るとぼやいていた黒島先任参謀(中村俊一)は後に哲学者になったのだそうだ。「この映画、とにかく軍人役の人たちが日米を問わず武人っぽい硬質の顔立ちをしてるのが印象的です。私が個人的に好きなのはE・G・マーシャル扮する情報将校ブラットン中佐。あの四角い顔でひとりやきもきしてる姿が、なんだかいいんですねえ。」とのことだが、確かに日米とも皆、引き締まった顔付で、笑っても硬質だったように思う。ばかもん!を音声で聞いたのは、実に久しぶりのような気がした。

 この淵田中佐が旗艦赤城を出撃したのが全編二時間半ほどの映画の六割に至るところで、無傷のまま秘密裡に真珠湾に到達し、突撃命令を発して、奇襲成功の打電をするまでの十分間足らずの後、一時間近くの大半を空襲場面に費やしていたが、重要なのは、この奇襲攻撃が後に「リメンバー・パールハーバー」というスローガンのもと、日本側の卑劣な闇討ち攻撃だとされるに至った事情について、アメリカ側の落ち度や日本側の思惑外れなどを非常にニュートラルに描き出すばかりか、アメリカ側が事前に察知しながら看過したと見做される証拠にされそうな暗号解読器の破壊指示まで描出していることだと思った。

 本作のなかでは、日本との関係をそこまで危惧していなかった米国が、対日関係の情報についての報告先に、そもそも大統領を位置づけていなかったことが示されていたのだが、実際にそうだったのだろうか。よく俎上に載せられる空母の件について、山本長官の主眼だったことが強調されていた空母を逃していることに対して、作戦行動の継続を主張する者もいたが、南雲中将(東野英治郎)が、これから探すのでは成算なしということで、それを制した形になっていた。米軍が真珠湾に空母を残さず演習に出していたのか偶々なのかについての言及はなかったが、偶々とする立場からの製作だったように思う。

 炎上する真珠湾の姿を映し出したラストシーンの直前に本作の登場人物として最後に現れる者が、山本五十六連合艦隊司令長官(山村聡)だったことが印象深い。自身の企てた奇襲作戦が眼前の奏功を遂げながらも、結果的に米国を一致団結させてしまうことになるのを憂えていた。
by ヤマ

'22. 2.25. BSプレミアム録画



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