『ドリームプラン』(King Richard)
監督 レイナルド・マーカス・グリーン

 ウィリアムズ姉妹が世界を席巻し始めた時分、彼女たちに注目しつつも、姉妹以上に父親リチャードに興味を持った覚えがあるから、まさにドンピシャの映画化作品だった。そう贔屓筋の役者ではないので、あまり多くは観ていないが、それでも天下のウィル・スミス、少なからぬ作品を観ているなかでのベストアクトだという気がした。

 映画化作品だから、無論これが全て事実のとおりだとは思わないけれども、凄い父親がいたものだと恐れ入った。横紙破りとも言うべきほどのチャレンジ精神、タフなメンタリティ、冷静な抑制力と熱い攻撃力と持続力、非常に頭の良い計算高さ、何よりも自分と娘を信じる力の強さ、いずれもがタフなテニスの試合を勝ち抜くのに必要なものだが、姉妹をテニスの女王に育て上げるという“ドリームプラン”を彼が果すうえで、パーフェクトに実践して見せていたものだったように思う。

 折しも冬季オリンピック北京大会での女子フィギュアのドーピング疑惑によって浮き彫りにされた感のある、ジュニア選手の育成に名を借りた使い捨て問題に対して、早々とそのリスクを看破し、見事な駆け引きによってゲームコントロールを果たして、姉妹を護りつつ育て上げたリチャードの賢さと勇気に感服させられた。そのプロセスにおいて彼が負ったプレッシャーと迷いの重さをウィル・スミスがとてもよく表現していた気がする。

 娘たちにディズニー映画『シンデレラ』を見せて、謙譲の徳の大切さを説く彼が、白人コーチやスポーツ企業のエージェント、メディア取材陣といった人々をうまく利用しつつ、その利権構造のなかで食い物にされないために過剰に強がり、決して舐められないよう、必死に戦っている姿に心打たれた。原題が仄めかしている獅子心王リチャードそのものの奮闘ぶりだった。そして、その獅子心王を見事に支えるばかりか、大事なところで諫めることに抜かりのない妻オラシーン(アーンジャニュー・エリス)に痺れた。

 どうだ、あのサービスは、妻が教えたんだぞ!との台詞に含蓄があり、リチャードが誇らしげに発する場面が、実によかった。ブラックライブズマターがひときわ注目を浴びたればこその映画化だったような気がするが、それ以上に家族の物語として観応えのある作品だったと思う。




推薦テクスト:「やっぱり映画がえいがねぇ!」より
https://www.facebook.com/groups/826339410798977/posts/4400281386738077/
by ヤマ

'22. 2.23. TOHOシネマズ5



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