『㊙色情めす市場』［'74］
監督 田中登
　映友に誘われたＶＴＲ観賞会で観たのだが、もはや中年とも言えない高年男女十四名（男九名女五名）で日活ロマンポルノを観て意見交換する機会を得るとは思い掛けず、更には、実夫を演じた夢村四郎とは若い時分の劇団仲間で、思いがけず懐かしく観たという女性がおいでたり、必ずしも真珠仕込みの陽物ゆえだとも思えない形で浅見（高橋明）に文江（宮下順子）を寝取られた斉藤を演じていた萩原朔美が朔太郎の孫だと教わったりして、なかなか興味深かった。

　未見作品だと思っていたのだが、観てみると覚えのある作品だった。手元の記録に残っていないから、学生時分に観たものだろうと思う。似たようなタイトルの多い成人映画に対して、当時はさして作品タイトルに注意を払っていなかったし、あまりに名作傑作と聞いたものだから、未見だと思ったのかもしれない。

　再見すると、大阪万博から四年、改めてその開催を強く意識しているように感じた。「なにが人類の進歩と調和だ！世界の国からこんにちは、だと？ 大阪の新世界はこれじゃい」と言わんばかりの突っ張った若々しい反抗心が数々のタブー破りとなって、野心的な跳ね返りとして現れていたように感じる。通天閣の展望台から見下ろした街の屋根に大きく「新世界」の文字が映えていた映画館「新世界座」を捉えたショットが利いていた。

　ロマンポルノからロマンを剥ぎ取り、愛と性ではなく、最も愛から遠い性を描き、濡れ場に使うのがお約束のパートカラーから性交場面をいっさい剥ぎ取り、釜ヶ崎あいりん地区でのロケ敢行に挑み、知的障碍者の使い方にしても、線香台に見立てた女体の使い方にしても、姉弟近親相姦や母娘の淫売対決にしても、空気人形の安っぽいダッチワイフを抱えた街歩き撮影にしても、敢えて挑発のための挑発に終始しているような気がしてならなかった。

　しかも、そのタブー破りこそが主題のようでありながら、最後に飛べない鳥の飛翔と墜落による縊死に重ねた弟（夢村四郎）の謎めいた死や、股さえ開けば食いはぐれはないと「女」に居直っていた若く未熟なトメ（芹明香）が十五歳しか違わない母親よね（花柳幻舟）のなれの果てに「女の哀しみ」を看取って涙するに至るかのような姿を描いて、妙に文学的な意匠としてのロマンを施している顛末の収まりのよさに、作り手の自家撞着を観た気がして、少々興覚めるようなところがあった。

　過剰に名作傑作と謳われていなければ、若々しい少々意気がったタブー破りに、やりもやったりと快哉を挙げたかもしれない気がしなくもないけれども、ロマンポルノのなかでも１,２を争うほどの名作との誉れ高き作品だなどと聞くと、いろいろ語り処のある面白い映画だとは思うものの、持ち前の天邪鬼が反応してしまうようだ。それもあってか、僕は、本作では芹明香よりも、この破調のロマポにおいて、実に真っ当にポルノ女優を全うしていた宮下順子のほうに惹かれた。加えて、よくぞかような役どころを受け演じたものだと、男を繋ぎ留めるためのカネを娘に無心する年増メガネ娼婦のよねを演じた花柳幻舟に感心した。

　本作は、別の映友から聞くところによると、元々は、二時間もの大作というロマポの横紙破りを83分に押し込まれた映画らしく、実夫【さねお】などという、いかにも陰核の古称から採ったと思しき名前の弟の死が謎めいていたのは、無理な編集に祟られた面もあるようなのだが、そもそもあのようなラストに持っていく構成そのものが、一見したところの収まりのよさとは裏腹に、僕には却って座りの悪い感じを残しているような気がした。
by ヤマ

'21. 3.22.　あいあいビル２F


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