『大殺陣』['64]
監督 工藤栄一

 スタイルのほうが前面に出てくる印象のある工藤作品は、あまり僕の好むところではなく、手元の記録によれば観ている作品も他には、『十三人の刺客』『権九郎旅日記』『泣きぼくろ』『野獣刑事』の四作品しかないのだけれども、そのなかでは、本作が最も観応えがあるような気がした。

 そのスタイリッシュな画面もさることながら、今の映画人にはとても撮れないであろう、反政府活動としてのテロリズムにコミットしているような部分が窺えて、時代を感じた。満を持した赤穂浪士の討ち入りのごとき、徳川綱重暗殺に向かう前の、山鹿素行(安部徹)の姪おみや(宗方奈美)の告白や、最年長ゆえと実動隊の仕切り役に任じられた傘張り御家人星野(大坂志郎)の痛切な覚悟を観ていると、「天に口なし人を以て言わしむ」をもじって「天に剣なし人を以て斬らしむ」と鼓舞していた山鹿素行らを非ともしにくい一方で、みやへの肉欲に限らず我欲に終始していた岡部(成瀬昌彦)や日下(山本麟一)の下衆っぷりが生々しく、結局のところ、大事を果たしたのは、山鹿一党とは元々縁のなかった神保平四郎(里見浩太朗)や別所隼人(河原崎長一郎)、そして、ほとんど行きずりと言うほかない浅利又之進(平幹二朗)だったという皮肉がなかなか辛辣かつ効いていたように思う。主義者など決してあてにはならないというわけだ。

 それにしても、己が専横政治体制の保全を企てた大老酒井(大友柳太朗)が最後に「甲府公は死んではおらぬ、甲府公は御無事なのだ」と押し通そうとする姿の見苦しさは、昨今の国会での政府答弁を思わせるようなところがあって、苦笑してしまった。しかも、この酒井、役に立つ間だけ引き立て、下手を打てば容赦なくお役御免にするぞと、汚れ役を負っている大目付の北条氏長(大木実)を人事で脅しあげる有様で、笑うに笑えないタイムリーさに、“取り戻そう”とのスローガンによる復古主義とはこういうことかと恐れ入った。

 また、暗殺計画実行に際して山鹿素行が仕掛けた策略である馬喰によるスタンピード場面など、ちょっと西部劇を思わせるスケール感があって感心させられた。そして、脇役の大坂志郎が実にいい。代表作ではないだろうか。二言目には「子供を叱るなよ」と庇い、御内儀(赤木春恵)からは「この人のおかげで何とか…」と慕われている情の人物だった。そして、“政道の無体が罷り通り、子や孫の代まで苦しめるような専横”はなんとかしなければいけないと言いつつ、地味な紙貼りに勤しむことのできる律儀の人物だった。また、ひとたび仕切り役に任じられると、行き届いた差配と声掛けができて、後方からではなく先陣を切る見事な人物だった。それらのいずれをも違和感ないさりげなさで体現していて、大いに感心させられた。酒井や岡部、日下との対照が鮮やかだったように思う。

 映友から問われた作品タイトルの読み方は、僕も迷うところがあって、幕政であれ暗殺計画であれ、そういった場における“大立者”というようなことだったら、殺陣ではなくて立にならないといけないが、最後の殺陣を売りにしたうえで、大立者と掛けているのだったら、「おおだて」と読んでやらないといけない気がするのだが、果たしてどうなのだろう。
by ヤマ

'21 3. 8. BSプレミアム録画



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