『西部の男』(The Westerner)['40]
監督 ウィリアム・ワイラー

 八十年前の映画だが、初めて観た。ビーンとか言ってたから、ロイ・ビーンみたいだなと思っていると、ほんとに自称判事の無法者(ウォルター・ブレナン)が主役と言ってもいいような映画だった。当時だと時代的に彼を主役に配する映画製作はできないから、敵役に配しているものの、メインキャラクターは、ロイ・ビーンだったような気がする。

 半世紀前の『ロイ・ビーン』['72]は、公開時に観た覚えがあるものの、僕の好む西部劇の人物像と異なり、妙に掴みどころがなかったのか、あまり好もしい印象が残っていないが、作品名は強く残っていた映画だ。今にして思えば、'70年代ウエスタンなれば、時代的にはむしろそれで正当だったのだろう。

 ところが、本作を観ると、なにもそれは時代的なもののせいとばかりは言えない気がした。何とも食えない人物どころか、明らかにろくでなし無法者の側にいるのに、深く考えているのか考えが足りないのかよく判らない主人公の流れ者コール・ハーディン(ゲイリー・クーパー)との不可解な友情もどきで繋がっている感じが、とても八十年前のハリウッド西部劇だとは思えないモヤモヤ感を醸し出していたように思う。

 半世紀前の『ロイ・ビーン』にしても、'70年代作品という時代性もさることながら、実在したロイ・ビーンその人にまつわる口伝による部分が実は大きかったのかもしれないなどと思った。

 ビーンやハーディンに比べ、人物像が明快で美しかったのがジェーン・マシューズ(ドリス・ダヴェンポート)で、ハーディンの企んだビーン対策とも知らずに髪を求められて見せる姿と、ビーンの奸計によって農園を焼き討ちにされた怒りに燃える瞳が魅力的だった。ビーンがその名を採って己が牛耳る町ヴィネガルーンの名前をラングトリーに改名した女優リリー・ラングトリーとして姿を見せていたリリアン・ボンドもそれらしき華を窺わせていたけれども、それがちょうど引き立て役になるほどに、ドリス・ダヴェンポートが素晴らしく、とりわけ髪切り場面が好かったように思う。
by ヤマ

'21. 7.20. BSプレミアム録画



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