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『老人と海』(The Old Man And The Sea)['58] | |||||
監督 ジョン・スタージェス
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たまたまSNSでスペンサー・トレイシーの『山』の話が出たからと言うわけでもないが、『山』は手元になかったので、海のほうを観ることにしたものだ。ほんの子供の時分にTV視聴した覚えがあるのみだったが、自分が老人の域に来ているせいか、かほどの名作だったかと驚きながら視聴した。 還暦も過ぎている僕が生まれた年の作品だから、いまの映画からすれば、スペクタクル的技術ではとうてい及ばないはずなのに、稀代の大物と三昼夜の死闘を繰り広げる緊迫感、仕留めた獲物を鮫に台無しにされる悲痛、淡々と重ねられるナレーションの響きも相俟って、どこか崇高すら感じさせる味わいに恐れ入った。 老人(スペンサー・トレイシー)は、完敗だと呟いていたが、マノリン少年(フェリッペ・パゾス)がその弁を否定していたように、観る者の眼には決して敗北とは映らない。むしろ、身の総てを鮫に食われ、巨大な骨と頭のみで帰還したことによって、恐らくは胸を傷めたことで老人の最後の出漁となったであろうこの死闘は、伝説となったに違いない。 歳を取って、老人は謙虚になったと語られ、年端もいかない少年に礼を言いながらビールを奢ってもらう有様ながら、内に秘めた静かな闘志に些かの衰えも見せていなかった老漁師を演じたスペンサー・トレイシーが御見事だった。ヘミングウェイに「謙虚」というのは、いかにも似つかわしくないような気がするが、老人が孤のなかで見せていた闘志には、いかにもヘミングウェイらしい気概を感じた。 むかし僕が観たのは、マノリンと同じくらいの年頃だったような気がする。年端もいかない子供の時分に、この老境を味わうのはやはり難しかろうと思った。それからすれば、マノリンは一緒に漁に出ていたにしても、なかなか大したものだ。幼い時分のヘミングウェイの記憶なのかもしれないと思った。 | |||||
by ヤマ '21. 6.12. BSプレミアム録画 | |||||
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