『剣の舞 我が心の旋律』(Tanets S Sablyami)['18]
脚本・監督 ユスプ・ラジコフ

 アラム・ハチャトゥリアンのかの有名な剣の舞が舞曲であるのは、そのタイトルからも知らない話ではなかったけれども、収められたバレエ曲『ガイーヌ』は観たこともなかったから、あれほど見栄えのするバレエなら、もっとたくさん見せて欲しかったとの恨みが残るほど、陰陰滅滅としたアラム(アンバルツム・カバニアン)の鬱屈に付き合わされて、いささか食傷した。

 それにしても、何が幸いとなることやらと驚いた。本作に拠れば、元々『ガイーヌ』になかったものを急遽注文を付けられて作曲したもので、しかも、アラムが強請たかりに出遭わなければ、あのリズムは生まれなかったことになる。本当だろうか、怪しい限りだ。チラシの惹句に記された「知られざる真実とは――。」というのは、映画のどの部分なのだろう。

 あの時期のソ連で名を挙げた作品だから、スターリンを喜ばせるようなバレエだったのかと思いきや、政府に対しては、むしろ挑戦的で、アルメニア人としての民族的誇りにこだわりを持っていた人物であるように描かれていた部分は、果たしてどうだったのだろう。なんだかとても創作色の濃い作品だったような気がしてならなかった。

 また、来日して演奏会をしていたらしいことにも驚いた。この部分については、当時の記録画像のコラージュから垣間見えたことなので、創作や脚色ではなくて、史実なのだろうけれども、♪剣の舞♪に故あって、葛藤を抱えつつ挿入したようであった、印象深いサクソフォンの旋律の謂れとなるサックス奏者アルカジーの存在や獄中での自死は、虚構のような気がしてならない。

 初演に臨む最もプレッシャーの強い二週間に敢えて絞り込んで、回想を織り交ぜてアラムの苦衷を描いていたのだろうが、作り手の描きたいこととこちらの観たいものとが、ずれてしまっていたような気がする。そして、そのズレを描き手側の想いに引き込んで埋めるだけの力量はなかったということなのだろう。

 アラムに想いを寄せるダンサーのサーシャをもう少し活かせたら、かなり違ったのではないかと思うのだが、どうもアラムに魅力が乏しかった気がする。結局、アラムの♪剣の舞♪という楽曲に全て寄り掛かったような映画だったように思う。だから、それならそれで、きちんとバレエを見せてほしいという思いが湧いたような気がする。それだけ、バレエが良かったということなのだろう。

 それにしても、強請たかりに襲われて、ホールドアップしていたら、なにかが降臨してきて指でリズムを刻みだしたというのは、いくら劇的降臨だったとは言え、ドラマティックに作り過ぎだろうという気がしてならなかった。
by ヤマ

'21. 2.19. あたご劇場



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