『罪の声』
監督 土井裕泰

 二日前に観た『朝が来る』に続いて、少女の哀れが募ったが、なかなか観応えのある作品だった。生島聡一郎(宇野祥平)の存在が、実に効いていたように思う。フィクションとしての説得力に満ちていて、大いに感心した。一か所だけ、現金受渡場所を指示してきたテープの女性の声が、最近の鑑定で二十代女性から十代半ばに変わったという話を阿久津記者(小栗旬)がしていたようだったのに、阿久津と会う前の曽根俊也(星野源)が十代半ばの娘だと言っていて、「あれ?」と思った以外には、むしろ成程そうだったのかと納得できるような事件の読み筋だった気がする。

 原作者の塩田武士が本作の曽根俊也と同じ年頃になるらしい。されば、俊也の母(梶芽衣子)や伯父の達雄(宇崎竜童)が若い頃【阿部純子・川口覚】に身を投じていた学生運動についての時代的空気には触れたことがないわけだ。そういう立ち位置の者からの新左翼運動ないしは全共闘世代に対する捉え方を描いた作品をあまり観たことがなかったので、新鮮に感じた。

 実際のグリコ・森永事件の首謀者が新左翼運動の元活動家だったかどうかとは別に、本作をそのように設えることによって、彼らが無自覚なるままに後世代に遺した傷の深さを問うているように感じられた。俊也が遺された写真の日付のズレから問い質したことに応えた老いた母から告げられた秘密に対して、余命幾ばくもないことを知ったうえで詰問していた場面に作り手の気迫が宿っていたように思う。

 俊也には、自分と聡一郎が入れ替わっていても何らおかしくないと思える戦慄があったろうし、その聡一郎と姉の望の見舞われていた災難が、何とも痛烈だった。そこには、今世紀に入って特に顕著になってきたように思える自爆テロや無差別テロといった事件にまつわる“大義”の欺瞞に対する作り手の強い憤りが投影されているように感じるとともに、遺恨による報復は、より悲劇を深めることに利用されるだけだとの想いが強く働いているように感じた。




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by ヤマ

'20.11. 7. TOHOシネマズ3



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