『風の谷のナウシカ』['84]
監督 宮崎駿

 スクリーン観賞が果たせていなかったので、数十年ぶりの再見をしたが、この時分の宮崎アニメの疾走感というのは、やはりいいなと思った。谷の幼子たちから「姫姉ちゃん」と呼ばれる族長の娘ナウシカ【声:島本須美】の伸びやかに飛翔する姿が実に気持ちよく、風を読むことに長けているのと同じく生き物の心を読み取ることにも長けている共感力の高さが美しかった。

 “身を捨てると必ず浮かぶ瀬のある定めの姫姉ちゃん”の冒険譚を観ながら、COVID-19の腐海に沈んでいる今の地球の下では何が起こっているのだろうなどと思わずにいられなかったが、守護神オームが出現していないのだから、少なくとも再生の森があるわけではなさそうだ。

 それにしても、三十六年前に提起されている環境問題や大量破壊兵器による威嚇覇権を巡る武力問題がより深刻になるとともに、ナウシカの力の源泉たる共感力がますます脅かされるような分断統治が権力保持の常道と化してきている“国際社会の退化ぶり”は、どうしたものだろう。本作が示す「青き衣の者」伝説のごとき救世主たるナウシカの到来を待つしかないなどとは思いたくないのだが、明るい兆しが見えてこないのがやりきれない。

 すっかり忘れていたが、キツネリスのテト【声:吉田理保子】を匿い潜らせるナウシカに「そうだ、胸の谷のナウシカだった」と、観ていて思い出したのだけれども、猛毒の瘴気を放つ胞子の腐海の森の下に広がる再生の森以外には、安息できる場がついぞ現れなかったと思われる本作での、地上における唯一の例外イメージを提示した場面だったような気がする。
by ヤマ

'20. 7.13. TOHOシネマズ9


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