『砂漠の鬼将軍』(The Desert Fox: The Story of Rommel)['51]
『史上最大の作戦』(The Longest Day)['62]
監督 ヘンリー・ハサウェイ
監督 ケン・アナキン、ベルンハルト・ヴィッキ、アンドリュー・マートン

 これがかの『砂漠の鬼将軍』かと、名将と謳われたロンメル元帥(ジェームズ・メイソン)を描いた映画を初めて観たわけだが、戦闘場面はあまりないと聞いていたように思うのに、印象に残ったのは、むしろ戦闘場面の映像の迫力だった。'51年当時でこれを撮ることができたのかと驚いたが、観ているうちに、どうも実際の戦争の記録映像のような気がしてきた。

 トム・クルーズがシュタウフェンベルク大佐を演じていた『ワルキューレ』['08]に描かれた“ヒトラー爆殺に失敗した暗殺計画”への関与を疑われての闇処刑に追い込まれたロンメル元帥が、実際に関与していたかどうかについては、関与していないとする立場の作品だったような気がする。エル・アラメン以降、ヒトラーを支持できなくなり、総統排除による戦争終結に加担するようにはなっていたという描き方がされているように思った。

 それにしても、独軍内でも反ヒトラーを共有する将校たちの間では、実際に「ボヘミアの伍長」という呼称が使われていたのか、少々気になった。聞くところによると、これはワイマール憲法下で大統領にも就任し、後にヒトラーを首相に任命することになったヒンデンブルク元帥の言った言葉のようだ。されば、軍部で継承されていてもおかしくないなと思った。


 その四日後に観た『史上最大の作戦』は、波打ち際に転がった逆さまの鉄兜で始まり終わる作品で、僕にとっては宿題映画だったものだ。ミッチーミラー合唱団の歌う主題歌は、耳に馴染みもあって、このところせっせと片付けている宿題映画を観るたびに思うクラシック作品の映画音楽の力に改めて感慨を覚えた。

 五年前、日本のいちばん長い日のリメイク作品を観たときに旧友から、「このタイトルは『史上最大の作戦』から来ているよね」と言われ、「その名はもちろん知っているけど、実は未見映画だ」と告げて驚かれていた作品でもある。ヨーロッパ戦線の戦局分岐点となったとされるノルマンディー上陸作戦のDデイを指す原題「いちばん長い日」を本作の序盤で口にしていたのが、たまたま四日前に観た『砂漠の鬼将軍』['51]に描かれていた独軍元帥ロンメルだったのが、意外だった。

 また、作戦決行暗号にヴェルレーヌの詩『落葉』が使われていたことも目を惹いたが、字幕では、馴染みのある上田敏の訳「身にしみて ひたぶるに うら悲し」ではなく、「単調なもの憂さに 心が傷つく」になっていたことに少々違和感があった。第一節からして「秋の日の ヰ゛オロンの ためいきの」ではなかった。

 それにしても、連合国軍側ですら訝しんだ独軍戦車隊の出動が遅れた原因が、総統判断でないと動かせない戦車隊に関する現場からの出動要請に対して、睡眠中の総統を側近の誰も起こすことができなかったからだとしていたことが印象深い。そのせいで上陸作戦の水際対策に失敗したなどということがあるのか、と思わぬでもなかったが、パワハラなんぞ屁とも思わない強権主義者に対する側近たちの忖度や怯懦というのは、昨今の我が国の政権を観ていても、あまりの愚行愚策に対して何故、誰も忠言しないのかと唖然とするようなことが些か頻出しているので、かの独裁者ヒトラーなれば、さもありなんとも思ったりした。そして、本作でもまた『砂漠の鬼将軍』と同様に、独軍将軍の口から「ボヘミアの伍長になど電話できるか」との台詞が発せられていたことが目に留まった。

 どうも実際の記録映像を使っていたような気のする『砂漠の鬼将軍』に対し、本作は、明らかにロケーション撮影だったから、そのスケール感と迫力に大いに感心した。ただ、序盤で独軍が400万発の地雷を埋めたと言っていたように思うオマハ・ビーチなのに、突破に難儀している様子は描かれても専ら銃撃で、地雷も機雷もほとんど機能していなかったのが合点がいかなかったが、当時の映画では、その戦況の再現は確かに無理だろうと思わぬでもない。実際は、さぞかし凄惨な上陸作戦だったのだろう。

 映友から教えてもらったところでは、中子真治氏の『SFXの世界』によると、この作品の戦闘シーンの撮影では怪我人が続出し(主に爆破シーン)、それがきっかけで爆発専門の技術職「パイロ・テクニシャン」というのができたとのことらしい。だとすれば、撮っても使えなかったシーンがかなりあったのかもしれない。爆発場面だけでなく、空挺部隊の降下場面などでも怪我人が続出していたのではなかろうか。そのようななかにあって、仏レジスタンスのジャニーヌ(イリナ・デミック)が検問兵士を惑わしつつ自転車で堂々と通り抜ける場面は、なんだか翌年公開の『大脱走』['63]みたいで面白かった。

 作中にあった「戦争は、死ぬか大怪我をするか迷子になるかのいずれかだ」との台詞と降伏の意を解せずに機銃掃射をした兵士の零していた「ビッテって何です?」との台詞が、ヨーロッパ戦線に勝利をもたらしたはずの“史上最大の作戦”にもかかわらず、戦争なるものの根源的な虚しさを語っていて感心させられたが、虚しさまでであって戦争批判までは織り込んでいないことも明白な作品だったように思う。

 他方で「戦場で俺たちも成長したかな」との台詞もあったし、オマハ・ビーチでの攻撃指揮を執るコータ准将を演じていたロバート・ミッチャムは、これまで、どうして彼が名優に選出されるのだろうと怪訝な気持ちの湧いていた僕に、成程との納得感を与えてくれていたし、空挺師団を率いていたバンダ―ボルト中佐を演じていたジョン・ウェインは、相変わらずのウェインぶりだった気がする。それにしても、セオドア・ルーズベルト・ジュニアを演じていたヘンリー・フォンダが端役のように映る作品というのは、そうそうあるものではないように思う。凄いものだ。

by ヤマ

'20.12.14. BSプレミアム録画
'20.12.18. BSプレミアム録画



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