『オン・ザ・ロック』(On the Rocks)
監督・脚本 ソフィア・コッポラ

 信号無視で警察に押さえられても、警官にエンスト車の押し掛けまでさせたうえで赦免されるほどに、顔が広くて話術に長け、当然のように金持ちで、訳知り顔の自己表出に衒いもないどころか目立ちたがりとしか思えないくらい、何もかもが規格外という、実に厄介で魅力的な父親を持つと、かほどに面倒くさいものかと、結婚していてもつい父親を頼ってしまう娘の親愛と違和感の混濁のさまがなかなか面白かった。そういう意味では、監督・脚本を務めたソフィアの父フランシス・フォードに対する想いがあまりに素直に表れているように感じられて、いささか驚いた。

 僕は、ソフィア・コッポラ監督とは相性が悪く、そのあざとさが気に障るところがあって、『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』['17]を観たときなど、観賞メモになんでこんなのがカンヌの監督賞なん?(苦笑) 審査員長、誰だったっけ。などと記していたりするのだが、本作は、けっこう興味深く観ることができた。そうは言っても、他に観ているのは『ヴァージン・スーサイズ』['99]と『ロスト・イン・トランスレーション』['03]の二作しかない。

 本作を面白く観ることができたのには、『ロスト・イン・トランスレーション』にも出演していたビル・マーレイが、ローラ(ラシダ・ジョーンズ)の父親フェリックスを演じて醸し出していた、実に飄々とした愛嬌が効いていたような気がする。ローラの夫ディーン(マーロン・ウェイアンズ)なぞ、肝心の夫役のはずなのに、物語での配置的には、ほとんど当て馬のような存在だった気がする。

 観終えてから、例によって映画館の表に貼り出されているプレスシートなどの掲示物を読んでいたら、娘役のローラを演じたラシダ・ジョーンズは、クインシー・ジョーンズの娘だとのこと。かの久石譲の名前の元になったクインシーが父親ならば、ソフィアの書いたフェリックスを父に持つローラの想いは、本人の弁にあったように、よく分ったに違いない。




推薦テクスト:「チネチッタ高知」より
https://cc-kochi.xii.jp/hotondo_ke/20112302/
by ヤマ

'20.11.22. あたご劇場



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