『0円キッチン』(Wastecooking)['15]
『文旦好きがこうじて』['19]
『ノーマ東京 世界一のレストランが日本にやって来た』(Ants On A Shrimp)['16]
監督 ダーヴィド・グロス、ゲオルク・ミッシュ
制作 思い出がかり
監督 モーリス・デッカーズ

 食にまつわるドキュメンタリー映画三態とも言うべき三作品だった。廃棄食材から思い掛けない料理を作り出す食材救出人がEU5か国を巡って、各国の食品廃棄状況とそれに対する取り組みを訪ねたロードムービー『0円キッチン』から、1食5万円は下らなさそうな高級料理として凝った調理・食材・演出を提供することに全身全霊懸けているような料理人たちを捉えた『ノーマ東京』までの両極端を繋ぐ形で、地元食材として高評価を得ている果物の文旦を捉えた短編ドキュメンタリーを挟んだ、なかなか旨味のあるメニューだったように思う。


 欧州にはゴミ箱ダイバーなどと名乗る活動家が何人くらいいるのだろう。食品ロスへの取り組みは、本作の撮られた5年前当時でも相当に進んでいるようで、食品廃棄禁止法のような制度が生まれる素地は、こうして作られたのかと感慨深かった。とりわけ、サラエボ紛争で身をもって飢餓を知ったことから活動に取り組んでいると語っていた人物の言葉と佇まいが印象に残った。3年前に高知でも上映されたのだが、機を逸して観逃していた映画の拾い直しができて思い掛けなくも、ありがたい機会だった。

 それにしても、表示よりも自分の味覚のほうを信じると言って、訪問家庭の冷凍庫に死蔵されていた2002年賞味期限のほうれん草食品を調理し、振舞っていたのは、十年越えだけに、なかなか衝撃的だった。また、肉食自体が構造的に備えている非効率を革命的に変えるものとして、たんぱく質の摂取源を昆虫に求める昆虫食の勧めについての取組みが捉えられていたことも、大いに目を惹いた。しかも、そういう経済性の面においては、『0円キッチン』の対極にあるような『ノーマ東京』の原題(蟻の載った海老)に掲げられていたりすることが料理や食の持っている面白さというか、不思議さのように感じた。


 地元発の『文旦好きがこうじて』は、小学校の同級生でもある、絵本作家でイラストレーターの三本桂子の和やかな絵による文旦の収穫までの作業工程を綴った導入部の後、県下のいくつかの文旦農園を紹介した作品だった。各園いずこもなかなか大掛かりに展開していて感心するとともに、映像的にも思いのほか魅力的だったように思う。絵柄的には、文旦の生った木々と海とが一望できる農園に惹かれ、物語的には、祖母が一人で維持してきた文旦園を孫息子が継いでいる農園に魅せられた。

 上映会場で配布された「文旦ムキ通信」によると、本作で文旦ムキの披露をしていた東京のレストラン「INUA」は、『ノーマ東京』に登場していたシェフのトーマス・フレベルの店だそうだ。通信の表紙面に掲載されていた「第2回文旦バスケットコンテストに集まった作品」の写真がなかなか壮観だった。


 最後に観た『ノーマ東京』は、2015年1月に一か月半の期間限定で店を開いたデンマークの有名レストランの開店を捉えた作品だったわけだが、僕としては、料理人たちがメニュー作成に奮闘する過程や料理以上に「ノーマ」を率いるレネ・レゼピを描いた映画のように感じた。昨今の流行り言葉である3密とは違う「親密・厳密・緻密」の3密が印象深いシェフで、実に見事なリーダーシップとキャプテンシーを発揮していたように思う。3密のなかでも親密は、上に立つ者としてなかなか困難な密だという気がするが、スタッフに混じり、自ら率先して厨房の調理台を洗っている姿や、開店初日の開店時刻に階下にいて間に合わないシェフに配慮して1分半待ちながらも携帯で断りを入れて店を開けるようスタッフに号令をかける姿が、映画的に仕込んだものではなくて、デンマークの本店でも日常的に発揮しているものなら、幾たびもコンテストで「世界一のレストラン」に選出されるに相応しい、なかなか大した人物だと思った。
by ヤマ

'20. 6.13. 喫茶メフィストフェレス2Fシアター



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