『牝猫と現金』(Fleur d'oseille)['67]
『媚薬』(Bell, Book and Candle)['58]
『女王陛下のダイナマイト』(Ne Nous Fâchons Pas)['66]
監督 ジョルジュ・ロートネル
監督 リチャード・クワイン
監督 ジョルジュ・ロートネル

 先輩映友から何年も前から託されていた旧作の宿題を片付けた。先に観た『牝猫と現金』は、このところDVD観賞が続いているので、改めてやはりブルーレイは綺麗だなぁと感心しつつも、「なんだこれは」というほかない展開と、「なんだこれは」というほかない人物造形、「なんだこれは」というほかない顛末に、先輩映友がどういうお題で本作を託してくれたのか、混乱してしまった。おまけにディスクには90分と表示されているのに、上映時間が1時間50分で、これまた「なんだこれは」というほかないディスクだった。

 今でいう母子生活支援施設で知り合ったカティことカトリーヌ(ミレーユ・ダルク)とマリテ(アヌーク・フェルジャック)の二人が、それぞれの赤ん坊を籠に入れ、カティの赤ん坊の父親と暮らしていた田舎の家の庭に出て、やおら全裸になって水浴びしつつ戯れるのを、隣宅の画家ガリエール(ポール・プレボ)が庭のリクライニングチェアに凭れながら、双眼鏡で覗き見している図などというのは、なんだかATG映画ばりだと思った次第。

 死んだ銀行強盗の隠した4億フランを巡る争奪戦と思いきや、実に緩く明るく変てこりんなフランス映画だった。本格的な銃撃戦で人もけっこう死ぬのだが、実にあっけらかんとした造りになっている。大金を狙うギャング一味の側からカティたちの側に、それこそ「寝返った」ジョー(アンリ・ガルサン)が実に不埒な奴で、明日をも知れぬ命だからと二人をそれぞれ口説いて、朝に夕に生身の銃も撃ちまくるというオカシナ映画だった。


 翌日観た『媚薬』は、圧倒的なパワーを持っていることに退屈した魔女が、気まぐれに惚れさせた人間にいつの間にか本気になってしまう物語を通じて、魔力を持った感情のない存在よりも、恋と不幸に涙することのできる人間のほうが幸いだという人間主義を謳い上げる、いかにも古き良き時代のアメリカ映画だったように思う。

 僕が生まれた年の作品だが、鼻の少し上向いた浜美枝風の美人の先例モデルのごときキム・ノヴァクが、それこそ「めまい」を誘うような魔女ギリアン・ホルロイドの蠱惑を演じて圧巻だった。ジェームズ・スチュワートの演じた二階の住人シェパード・ヘンダーソンは、まるでもう盆暗としか言いようのない無定見振りなのだが、魔法のせいという免罪符で救われているものの、世の男たちは、そういう魔法もかけられていない癖に彼と大差ないと言っているようでもあった。

 “魔女の使い”たる猫のパイワケットが効いていて、なかなかこなれた造りだったように思う。前夜に観たカティよりもギルことギリアンのほうがずっと牝猫だと、大きく背中の開いたドレスで科を作って横たわるキム・ノヴァクの姿態を観ながら思った。シェップとギルがキスを交わしながらの「きみはどんどんよくなる」「あなたも」の台詞に続く着衣のままの裸足の脚の重なりで交わりを映し出す奥床しさが、いかにも '50年代作品だと思ったが、こうして裸足を見せることで、ギリアンが根深く遺恨を抱えていたマール(ジャニス・ルール)が大学時分にした告げ口の“裸足”というのは、それだったのかと得心できる形になっていて、いかにもオールド・アメリカン・スタイルだなと、ほくそ笑んだ。そして、十年の開きがあるとはいえ、フランス映画の直球ぶりとの対照が可笑しかった。

 また、掛けられた魔法を解いてもらったシェパードが、のこのこと元婚約者マールの許を訪ね、よりを戻そうと持ちかけた場面で出てきた「気づいたら、日本でスキヤキを食べてるぞ」とのセリフに驚いた。坂本九の♪上を向いて歩こう♪がsukiyakiとの曲名で大ヒットしたのは、'60年代になってからだと思うが、スキヤキ自体は既に知られていたようだ。舞台劇からの翻案らしいが、この「スキヤキ」は、果たして原作戯曲にも出てくるのだろうか。


 一週間後に『女王陛下のダイナマイト』を観たら、『牝猫と現金』['67]と同じジョルジュ・ロートネル監督、ミレーユ・ダルク出演作だった。どうやら先輩映友からのお題のセットは、『媚薬』['58]ではなくて、こちらのほうだった模様。

 『牝猫と現金』以上にへんてこりんな話で、両作ともに脚本にも加わっているジョルジュ・ロートネルって、どういう人なのだろうと思った。どこか映画における漫画的可笑しさを狙っている節があるのだけれども、どうもピンと来ないというか滑っている気がする。映画好きだった亡父が「フランス映画はふざけた映画が多いから好きじゃない」とよく言っていた覚えがあるが、この手合いのフランス映画のことだったのだろう。時に岡本喜八作品で「なんじゃこりゃ」みたいなハチャメチャに出くわしたときに感じるものに通じている部分があるようにも感じた。

 今は足を洗っている元ヤクザのアントワーヌ(リノ・ヴァンチュラ)がキレやすい危ない男であることが冒頭で触れこまれるのだが、「キレないように」との原題が指しているのはアントワーヌではなく、観客だったりするのだろうかと可笑しかった。




『牝猫と現金』推薦テクスト:「虚実日誌」より
https://13374.diarynote.jp/201207022357101771/
『媚薬』推薦テクスト:「虚実日誌」より
https://13374.diarynote.jp/201407082308124030/
『女王陛下のダイナマイト』推薦テクスト:「虚実日誌」より
https://13374.diarynote.jp/201206242243217037/
by ヤマ

'20. 5. 9. BD観賞
'20. 5.10. DVD観賞
'20. 5.15. BD観賞



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