『記憶にございません!』
監督 三谷幸喜

 いかにも三谷幸喜らしい実に如才ない造りの作品だった。現首相は笑って観て、握手と歓談を三谷幸喜と交わしたそうだが、サイテー時期の黒田首相(中井貴一)を一切描かずに、画面ではひたすら好人物として描かれているのだから、鳥頭で観れば、許容もできるし、笑えるのだろう。あまりの厚顔無恥ぶりに恐れ入った。

 それを見越したうえでの作劇だったようだから、何ともその如才なさが妙に気に食わないようなところもあるが、最もタチが悪いのは官房長官であるとの核心を外してなかった点については、大いに認めざるを得ない。映画は、官房長官(草刈正雄)による筋の悪い人事ネタで始まっていたように思うが、さすがの三谷幸喜も、よもや先の内閣改造で一週間に二人の閣僚が辞任することになった官房長官推しの人事を予見していたわけではなかろうけれど、驚くほどにタイムリーだった。その人事といい、あいちトリエンナーレといい、全く不見識極まりない人物だが、劇中の官房長官も黒田首相から政治家としての想いを問われ、「この世界にできるだけ長くいられること」と答えさせていて感心した。

 理念ゼロの、換言すれば、現官房長官が文科省元事務次官に浴びせた「地位に恋々と」というものを、自身が地で言っているとストレートに揶揄しているのだから、現首相と違って現官房長官が本作を観ると、きっと気を悪くするに違いない。けれども、商売上手の作り手は、芸術文化振興基金の助成など申請してもいないだろうから、腹いせの仕様がないだろう。もっとも現首相と違って、およそ彼が本作を観るとは思えないのだけれども。

 組閣のための閣僚任命も、利権に係る口利きも、一事が万事“お友達ファースト”であったことを以てサイテーのサイテーたる由縁であったことを仄めかし、ゴルフが得意で、都合の悪い昔のことは全て綺麗さっぱり忘れたふりをすることのできる厚顔さを直截に描きながら、そのことを美談化する作劇ほどにキツイ皮肉はないのが本来なのに、この毒の抜き方の見事さは、一体どうなんだろうと、作り手の才の異能ぶりに功罪半ばするものを覚えずにはいられなかった。




推薦テクスト:「お楽しみは映画 から」より
http://takatonbinosu.cocolog-nifty.com/blog/2019/11/post-253eee.html
by ヤマ

'19.11.12. TOHOシネマズ5


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