『網走番外地』['65]
『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』['69]
監督 石井輝男

 思いのほか客が入っていたけれども、高倉健、江戸川乱歩、石井輝男、誰のネームバリューが最も大きかったのだろう。石井輝夫監督特集としてもこの二本を並べて番組とするのは、どういう客層を狙ってのものか少々訝しんだのだが、見事に功を奏していた。

 八年前にシネ・ヌーヴォ【大坂】で観た江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間は、「“異常性愛路線”と呼ばれた石井輝男監督によるカルト・シリーズ第1弾。」として『徳川女系図』['68]との二本立てだったが、どうやらそれは、いわゆる東映ポルノと呼ばれる路線のなかで石井輝男が撮った9作品のうちの最初と最後の作品だったようだ。ある意味、実に真っ当な番組編成だという気がする。

 今回は、そういう組み合わせとは違い、普通、思いつかない組み合わせのように感じたのだが、言うなれば「おかーさーん」をキーワードにして括ったということなのだろう。『網走番外地』では、間もなく刑期満了だった橘(高倉健)を鎖で繋がれたまま脱走に引きずり込んだ権田権三(南原宏治)が母親のことを口にしなければ、あの顛末は訪れなかったものだし、『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』では、まさしくカルト的なインパクトを放っているエンディングと直結するキーワードだから、「なかなか粋なセレクトではないか。結果もちゃんと出しているし、天晴れ!」と快哉を挙げた。

 映画館でたまたま遭遇した黄昏キネマの岡本氏は「これがあたご劇場でのフィルム上映の最後になるかもしれない。」などと言っていたが、それはともかく、獄囚を主役にした『網走番外地』にしても、怪作と呼ぶほかない『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』にしても、船頭の多い製作委員会方式が主流で、女性仕様がスタンダードになった今の時代では絶対に作られることのない映画だと改めて思った。

 後者で、観るからに異形の存在感を発揮していた菰田丈五郎(土方巽)以上に、『人間椅子』に潜んでみせたり『屋根裏の散歩者』の殺害方法を講じていた女装趣味による嗜虐性向のある執事の蛭川(小池朝雄)のキャラクターのカルト性に笑ってしまったからか、『網走番外地』の妻木保護司(丹波哲郎)が何だかカルト的な偏愛を呼びそうなキャラクターに見えてきたのが可笑しかった。

by ヤマ

'19. 2.20. あたご劇場



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