第189回市民映画会
『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(Shock And Awe)
『マダムのおかしな晩餐会』(Madame)
監督 ロブ・ライナー
監督 アマンダ・ステール

 先に観た『マダムのおかしな晩餐会』は、当事者も巻き込まれた者も「そんなはずでは…、そんなつもりでは…」に自他ともになるのが人の生だということを、かなりコミカルにシニカルに見せてくれていて悪くはないと思うものの、上流階級の俗物感とメイド側の卑屈のようなものに観ていて妙に気が悪くなるようなところがあって、あまり僕との相性が良くなかった。

 女主人アン(トニー・コレット)が、あたかも気を惹こうとするように、夜のプールに全裸で入って泳ぎ迫ってきたのを尻目に、プールから出ていたのは、夫のボブ(ハーヴェイ・カイテル)だと思ったけれど、もしかすると、別人だったりするのだろうか。

 ともあれ、いちばん可笑しかったのが家政婦レディのマリア(ロッシ・デ・パルマ)が晩餐の席で求められて披露したジョーク「メロン・洋ナシ・玉ねぎ、樫・樺・クリスマスツリー」と、そのジョークに対する晩餐会メンバーそれぞれの反応だったという有様だったから、作品的には少々喰い足りなかった。


 続いて観た『記者たち 衝撃と畏怖の真実』は、近ごろ流行の「based on」ではなく「is true story」と明記して描かれた硬骨と、ロブ・ライナー監督作品らしいエンタメ感がともに備わった秀作だった。

 煽ったメディアが愚かだったのか、煽らせた購読視聴者が愚かだったのかは、当然ながらその両方なのだし、悪党は戦争利権に目が眩んでいたラムズフェルドたちに間違いないことは、今や明白になっているわけだから、それを描いていてもさほど感心したりはしないのだけれども、序盤でのランデー夫妻の対話が効いていることに感心した。パトリオティズムという響きは耳に残っているが、愛国心と愛国主義とに訳し分けられていた原語がそれぞれ何だったか思い出せないのが残念だ。

 愛国心という言葉を発した夫ジョナサン(ウディ・ハレルソン)に対し、少々過剰とも言える反応を見せて、愛国主義は国民を分断し、荒廃させると強い口調で訴えていたクロアチア人女性の妻ヴラトカ(ミラ・ジョヴォヴィッチ)の姿が印象深い。ユーゴスラビア崩壊後の紛争からの亡命者なのだろう。権力者の戦争利権の拡張に庶民の愛国心が利用されることを肌身を以て知っていたわけだ。

 我が社は、他人の子供を戦場にやる連中ではなく、自分の子供を戦場に送ることになる人々の側に立つというナイト・リッダーのワシントン支局長ジョン・ウォルコット(ロブ・ライナー)の印象深い雄弁以上に、ヴラトカが夫に訴えていた言葉が僕には響いてきた。
by ヤマ

'19. 9.12. 高知市文化プラザかるぽーと大ホール



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