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『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』(Sergio & Serguei) | |||||
監督 エルネスト・ダラナス・セラーノ
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銃口を突きつけられているというわけではないにしても、大変な時代の大変な状況に見舞われているはずなのに、無線で繋がっている三人には、どこか泰然自若といった風情が漂っていて、何とも爽やかだった。昨今あまりに幼児性と反知性しか窺えない大人たちの姿を見せられてばかりでいささか辟易としているからか、それとは対照的なユーモアと奥行きを湛えた人物像が、実に味わい深かった。そして、セルジオの幼い娘が語り手として回顧していたように、生活は厳しくても、人々の心にまだゆとりのあった時代を懐かしんでいるようでもあった。 僕には無線の趣味はないけれども、友人知人の紹介で知り合う縁や何らかの選択性を得たうえで知り合う通常の出会いとは違って、無線のCQコールで繋がる“高い偶然性に支配された出会い”というのは、当世流行りのSNSにも真似のできない、他のいかなる出会いにも増して、ある種の運命的な“赤い糸”のようなものを心に抱かせるものなのだろう。そういう無線仲間の繋がりならでは、という感じがよく伝わってきたように思う。 それにしても、奇縁で繋がった三人の組合せは、実社会では考えられないものだった。ただでさえソビエト、アメリカ、キューバと言えば、政治的にデリケートな関係にあるわけだが、ソビエト崩壊直後の1991年とくれば、なおさらに難しい状況にあるし、個々人それぞれの政治的信条には、やはり隔たりがあることが明示されていたように思う。だが、それらを越えるものがCQ仲間の繋がりにはあるというわけだ。 キューバの大学講師セルジオを演じていたトマス・カオも、ソビエトの宇宙飛行士セルゲイを演じていたヘクター・ノアも、アメリカの謎の情報通ピーターを演じていたロン・パールマンも、どこか無邪気にユーモラスに己が生に対している感じがよく出ていて、魅力的だった。 二十五年後に娘が父の還暦祝いに用意したサプライズプレゼントは、映し出されなくても判るのだが、人の繋がりが国境やイデオロギーを乗り越える姿というのは、やはり観ていて気持ちがいい。彼らの無線での遣り取りを傍受していたキューバ情報部職員の滑稽味も実に利いていたように思う。本作が、どうして余り話題にもならなかったのだろう。少々とぼけた感じで、こんなふうには、なかなか撮れないものだと思うのだが…。 | |||||
by ヤマ '19. 6.17. あたご劇場 | |||||
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